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直交補空間の定義

計量ベクトル空間において、部分空間の任意の元に直交するベクトル全体の集合を直交補空間といいます。

ここでは、直交補空間を定義し、その基本的な性質を示します。特に、計量ベクトル空間が、部分空間とその直交補空間の直和に分解できることを示します。

直交補空間の定義

まず、直交補空間の定義を示します。

定義 7.6（直交補空間）

VV を KK 上の計量ベクトル空間として、WW を VV の部分空間とする。任意の WW の元に直交するベクトル全体の集合は VV の部分空間であり、これを WW の直交補空間（orthogonal\text{orthogonal} complement\text{complement}）といい、W⊥W^{\perp} と表す。

W⊥={ v∈V∣∀w∈W,v⋅w=0 }(7.3.1) \begin{align*} W^{\perp} = \left\{\, \bm{v} \in V \mid {}^{\forall} \bm{w} \in W, \bm{v} \cdot \bm{w} = 0 \,\right\} \end{align*} \tag{7.3.1}

解説

直交補空間とは

直交補空間とは、ある部分空間の任意の元に直交するベクトルからなる部分空間です。

直交補空間は、計量ベクトル空間の部分空間に対して定義されます。つまり、計量ベクトル空間 VV の部分空間 WW に対して、WW の直交補空間 W⊥W^{\perp} が定義されます。

直交補空間は部分空間

（7.3.1）式において、直交補空間 W⊥W^{\perp} を集合として定義されています。W⊥W^{\perp} が VV の部分空間であることは、次のように、簡単に確かめられます。

W⊥={ v∈V∣∀w∈W,v⋅w=0 }(7.3.1) \begin{align*} W^{\perp} = \left\{\, \bm{v} \in V \mid {}^{\forall} \bm{w} \in W, \bm{v} \cdot \bm{w} = 0 \,\right\} \end{align*} \tag{7.3.1}

直交補空間が和の演算を保存することの確認

まず、W⊥W^{\perp} を、任意の WW の元と直交するベクトルの集合として、v1,v2∈W⊥\bm{v}_{1}, \bm{v}_{2} \in W^{\perp} とすると、v1⋅w=0\bm{v}_{1} \cdot \bm{w} = 0 かつ v1⋅w=0\bm{v}_{1} \cdot \bm{w} = 0 であるから、次が成り立ちます。

(v1+v2)⋅w=v1⋅w+v2⋅w=0+0=0 \begin{align*} (\bm{v}_{1} + \bm{v}_{2}) \cdot \bm{w} &= \bm{v}_{1} \cdot \bm{w} + \bm{v}_{2} \cdot \bm{w} \\ &= 0 + 0 \\ &= 0 \\ \end{align*}

したがって、v1+v2∈W⊥\bm{v}_{1} + \bm{v}_{2} \in W^{\perp} であり、W⊥W^{\perp} はベクトルの和の演算を保存するといえます。

直交補空間がスカラー倍の演算を保存することの確認

次に、v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp}、c∈Kc \in K とすれば、次が成り立ちます。

(c v)⋅w=c (v⋅w)=c 0=0 \begin{align*} (c \, \bm{v}) \cdot \bm{w} &= c \, (\bm{v} \cdot \bm{w}) \\ &= c \, 0 \\ &= 0 \\ \end{align*}

よって、c v∈W⊥c \, \bm{v} \in W^{\perp} であり、W⊥W^{\perp} はベクトルのスカラー倍の演算を保存するといえます。

以上から、W⊥W^{\perp} は和とスカラー倍の演算について閉じているので、部分空間の定義（あるいは、定理 4.5（部分空間の条件））より、W⊥W^{\perp} は VV の部分空間であるといえます。


直交補空間の基本的性質

次に、定義から直ちに導かれる、直交補空間の基本的な性質を示します。

定理 7.13（直交補空間）

VV を KK 上の計量ベクトル空間とする。WW を VV の部分空間として、W⊥W^{\perp} を WW の直交補空間とすると、次が成り立つ。

(1)V=W⊕W⊥(2)dim⁡V=dim⁡W+dim⁡W⊥(3)(W⊥)⊥=W \begin{align} & (1) && V = W \oplus W^{\perp} \tag{7.3.2} \\ & (2) && \dim V = \dim W + \dim W^{\perp} \tag{7.3.3} \\ & (3) && {(W^{\perp})}^{\perp} = W \tag{7.3.4} \\ \end{align}

解説

（1）部分空間と直交補空間の直和

直交補空間は補空間

定理 7.13（直交補空間）の（11）は、直交補空間が、補空間であることを示しています。

すなわち、V=W⊕W⊥V = W \oplus W^{\perp} が成り立つということは、VV が部分空間 WW とその直交補空間 W⊥W^{\perp} の直和に等しいということであり、これは、WW と W⊥W^{\perp} が互いの補空間であるということに他なりません。

計量ベクトル空間の直和分解

また、V=W⊕W⊥V = W \oplus W^{\perp} が成り立つということは、計量ベクトル空間 VV が部分空間 WW とその直交補空間 W⊥W^{\perp} の直和に分解されることを表しています。

すなわち、任意の VV の元は、WW の元と W⊥W^{\perp} の元の和として一意に表すことができます（直和の定義）。

（2）直交補空間の次元

定理 7.13（直交補空間）の（22）は、計量ベクトル空間 VV の次元が、部分空間 WW の次元とその直交補空間 W⊥W^{\perp} の次元の和に等しいことを表しています。

下記の証明に示す通り、定理 4.38（部分空間の直和）より、（11）と（22）はほぼ同値の命題といえます。

（3）直交補空間の直交補空間

定理 7.13（直交補空間）の（33）は、ある部分空間 WW の直交補空間 W⊥W^{\perp} の直交補空間 (W⊥)⊥{(W^{\perp})}^{\perp} が、もとの部分空間 WW に等しいことを示しています。

これは、集合論において、ある部分集合 AA の補集合 AcA^{c} の補集合 (Ac)c{(A^{c})}^{c} が、もとの部分集合 AA に等しくなることに似ています。


証明

（11）v1,⋯ ,vr∈W\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r} \in W を WW の正規直交基底とすると、定理 4.33（線型独立なベクトルと基底）と定理 7.11（正規直交化）より、これにいくつかの VV の元を加えた v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} を VV の正規直交基底とすることができる。このとき、定理 4.28（基底であることと同値な条件）より、任意の v∈V\bm{v} \in V は、v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} の線型結合として、次のように、一意に表すことができる。

v=x1v1+⋯+xrvr+xr+1vr+1+⋯+xnvn \begin{gather*} \bm{v} = x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{r} \bm{v}_{r} + x_{r+1} \bm{v}_{r+1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \tag{∗\ast} \end{gather*}

いま、v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp} とすると、1⩽i⩽r1 \leqslant i \leqslant r について、v⋅vi=0\bm{v} \cdot \bm{v}_{i} = 0 が成り立つことから、（∗\ast）において、x1=⋯=xr=0x_{1} = \cdots = x_{r} = 0 であり、v=xr+1vr+1+⋯+xnvn\bm{v} = x_{r+1} \bm{v}_{r+1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} となる。したがって、v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp} ならば v∈⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩\bm{v} \in \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle が成り立つ。

逆に、v∈⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩\bm{v} \in \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle とすると、v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} が正規直交系であることから、1⩽i⩽r1 \leqslant i \leqslant r について、v⋅vi=0\bm{v} \cdot \bm{v}_{i} = 0 が成り立つ。したがって、v\bm{v} は WW の任意の元と直交し、v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp} が成り立つ。

以上から、W⊥=⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} = \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle が成り立つ。このとき、w∈W, w⊥∈W⊥\bm{w} \in W, \, \bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} とすれば、任意の v∈V\bm{v} \in V は w\bm{w} と w⊥\bm{w}^{\perp} の和として一意に表すことができる。

v=w+w⊥ \begin{gather*} \bm{v} = \bm{w} + \bm{w}^{\perp} \tag{∗∗\ast \ast} \end{gather*}

したがって、直和の定義より、V=W⊕W⊥V = W \oplus W^{\perp} が成り立つ。


（22）定理 4.38（部分空間の直和）と（11）より明らか。


（33）w∈W\bm{w} \in W とすると、任意の w⊥∈W⊥\bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} に対して w⋅w⊥=0\bm{w} \cdot \bm{w}^{\perp} = 0 が成り立つから、w∈(W⊥)⊥\bm{w} \in {(W^{\perp})}^{\perp} である。したがって、W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp} 。

また、v∈(W⊥)⊥\bm{v} \in {(W^{\perp})}^{\perp} とすると、(W⊥)⊥{(W^{\perp})}^{\perp} は VV の部分空間である。したがって、（11）より、v\bm{v} は、w∈W\bm{w} \in W と w⊥∈W⊥\bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} の和として一意に表せる。よって、v\bm{v} と w⊥∈W⊥\bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} の内積について、次が成り立つ。

v⋅w⊥=(w+w⊥)⋅w⊥=w⋅w⊥+w⊥⋅w⊥=∥ w⊥ ∥2 \begin{align*} \bm{v} \cdot \bm{w}^{\perp} &= (\bm{w} + \bm{w}^{\perp}) \cdot \bm{w}^{\perp} \\ &= \bm{w} \cdot \bm{w}^{\perp} + \bm{w}^{\perp} \cdot \bm{w}^{\perp} \\ &= {\lVert \, \bm{w}^{\perp} \, \rVert}^{2} \end{align*}

一方で、v\bm{v} は W⊥W^{\perp} の直交補空間 (W⊥)⊥{(W^{\perp})}^{\perp} の元であるから、v⋅w⊥=0\bm{v} \cdot \bm{w}^{\perp} = 0 が成り立つ。よって、

∥ w⊥ ∥2=0⇔w⊥=0 \begin{alignat*} {2} && {\lVert \, \bm{w}^{\perp} \, \rVert}^{2} &= 0 \\ & \Leftrightarrow \quad & \bm{w}^{\perp} &= \bm{0} \\ \end{alignat*}

となり、v=w∈W\bm{v} = \bm{w} \in W が成り立つ。したがって、(W⊥)⊥⊂W{(W^{\perp})}^{\perp} \subset W 。以上から、(W⊥)⊥=W{(W^{\perp})}^{\perp} = W が成り立つ。□\quad \square


証明の考え方

（11）定理 4.33（線型独立なベクトルと基底）と定理 7.11（正規直交化）を用いて、WW の正規直交基底を拡張して VV の正規直交基底を作ります。基底を拡張する際に加えたベクトルが生成する空間こそ、WW の直交補空間 W⊥W^{\perp} に他なりません。

（22）定理 4.38（部分空間の直和）より、（11）と（22）は同値といえます。

（33）W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp}、かつ、 (W⊥)⊥⊂W{(W^{\perp})}^{\perp} \subset W が成り立つことから、(W⊥)⊥=W{(W^{\perp})}^{\perp} = W を導きます。

（1）の証明

正規直交基底の拡張
  • WW の正規直交基底を拡張して、VV の正規直交基底を作ります。
  • WW の正規直交基底を、v1,⋯ ,vr\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r} とします。
  • WW の正規直交基底を拡張して得られる、VV の正規直交基底を、v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} とします。
  • このとき、定理 4.28（基底であることと同値な条件）より、任意の v∈V\bm{v} \in V は v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} の線型結合として一意に表すことができます。
    v=x1v1+⋯+xrvr+xr+1vr+1+⋯+xnvn \begin{gather*} \bm{v} = x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{r} \bm{v}_{r} + x_{r+1} \bm{v}_{r+1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \tag{∗\ast} \end{gather*}
直交補空間の生成元
  • WW の直交補空間が vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} により生成されること、すなわち W⊥=⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} = \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle が成り立つことを示します。
  • まず、W⊥⊂⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} \subset \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle を示します。
    • v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp} とすると、v\bm{v} は任意の WW の元と直交するので、1⩽i⩽r1 \leqslant i \leqslant r について、v⋅vi=0\bm{v} \cdot \bm{v}_{i} = 0 が成り立ちます。
    • このとき、（∗\ast）式において、x1=⋯=xr=0x_{1} = \cdots = x_{r} = 0 が成り立ちます。
    • よって、v=xr+1vr+1+⋯+xnvn\bm{v} = x_{r+1} \bm{v}_{r+1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} となり、v\bm{v} は vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} の生成する部分空間の元であるといえます。
    • v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp} ならば v∈⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩\bm{v} \in \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle であるので、W⊥⊂⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} \subset \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle が成り立つことが確かめられました。
  • 次に、⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩⊂W⊥\langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle \subset W^{\perp} を示します。
    • v∈⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩\bm{v} \in \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle とすると、v\bm{v} は vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} の線型結合として（一意に）表すことができます（定理 4.28（基底であることと同値な条件））。
    • このとき、v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} が正規直交系であることから、1⩽i⩽r1 \leqslant i \leqslant r について、v⋅vi=0\bm{v} \cdot \bm{v}_{i} = 0 が成り立ちます。
    • すなわち、v\bm{v} は WW の任意の元と直交します。
    • v∈⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩\bm{v} \in \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle ならば v∈W⊥\bm{v} \in W^{\perp} であるので、⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩⊂W⊥\langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle \subset W^{\perp} が成り立つことが確かめられました。
  • 以上から、W⊥⊂⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} \subset \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle、かつ、⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩⊂W⊥\langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle \subset W^{\perp} であるので、W⊥=⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} = \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle が成り立ちます。
直和であることの証明

  • 直和の定義にしたがって、V=W⊕W⊥V = W \oplus W^{\perp} が成り立つことを示します。

  • 上記の考察より、W=⟨ v1,⋯ ,vr ⟩,W = \langle \, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r} \, \rangle, W⊥=⟨ vr+1,⋯ ,vn ⟩W^{\perp} = \langle \, \bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} \, \rangle であるので、w∈W, w⊥∈W⊥\bm{w} \in W, \, \bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} とすれば、任意の v∈V\bm{v} \in V は w\bm{w} と w⊥\bm{w}^{\perp} の和として表すことができることになります。

    v=w+w⊥ \begin{gather*} \bm{v} = \bm{w} + \bm{w}^{\perp} \tag{∗∗\ast \ast} \end{gather*}

    • （∗∗\ast \ast）式は（∗\ast）式において、w=x1v1+⋯+xrvr,\bm{w} = x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{r} \bm{v}_{r}, w⊥=xr+1vr+1+⋯+xnvn\bm{w}^{\perp} = x_{r+1} \bm{v}_{r+1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} とした式に相当します。

      v= x1v1+⋯+xrvr ⏟w+ xr+1vr+1+⋯+xnvn ⏟w⊥=w+w⊥ \begin{align*} \bm{v} &= \underbrace{\, x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{r} \bm{v}_{r} \,}_{\bm{w}} + \underbrace{\, x_{r+1} \bm{v}_{r+1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \,}_{\bm{w}^{\perp}} \tag{∗\ast} \\ &= \bm{w} + \bm{w}^{\perp} \tag{∗∗\ast \ast} \end{align*}

    • v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} が VV の（正規直交）基底であることから、定理 4.28（基底であることと同値な条件）より、v\bm{v} の v1,⋯ ,vr,\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}, vr+1,⋯ ,vn\bm{v}_{r+1}, \cdots, \bm{v}_{n} の線型結合としての表し方（∗\ast）は一意的です。

    • つまり、v\bm{v} を w\bm{w} と w⊥\bm{w}^{\perp} の和としての表し方（∗∗\ast \ast）も一意的であるということです。

  • したがって、直和の定義より、V=W⊕W⊥V = W \oplus W^{\perp} が成り立ちます。


（2）の証明

  • （11）より、V=W⊕W⊥V = W \oplus W^{\perp} が成り立cちます。
  • このとき、定理 4.38（部分空間の直和）より、次が成り立ちます。
    dim⁡V=dim⁡ ( W⊕W⊥ )=dim⁡W+dim⁡W⊥ \begin{align*} \dim V &= \dim \, (\, W \oplus W^{\perp} \,) \\ &= \dim W + \dim W^{\perp} \end{align*}

（3）の証明

W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp} の証明
  • まず、W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp} を示します。
  • w∈W\bm{w} \in W とすると、w\bm{w} は任意の w⊥∈W⊥\bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} と直交するので、任意の w⊥\bm{w}^{\perp} に対して w⋅w⊥=0\bm{w} \cdot \bm{w}^{\perp} = 0 が成り立ちます。
  • すなわち、w\bm{w} は W⊥W^{\perp} の直交補空間の元であるので、w∈(W⊥)⊥\bm{w} \in {(W^{\perp})}^{\perp} となります（直交補空間の定義）。
  • したがって、W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp} ならば w∈(W⊥)⊥\bm{w} \in {(W^{\perp})}^{\perp} が成り立つので、W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp} となります。
(W⊥)⊥⊂W{(W^{\perp})}^{\perp} \subset W の証明

  • 次に、(W⊥)⊥⊂W{(W^{\perp})}^{\perp} \subset W を示します。

  • v∈(W⊥)⊥\bm{v} \in {(W^{\perp})}^{\perp} とすると、(W⊥)⊥{(W^{\perp})}^{\perp} は VV の部分空間であるから、（11）より、v\bm{v} は WW の元と W⊥W^{\perp} の元の和として一意に表せます。ここで、w∈W,  w⊥∈W⊥\bm{w} \in W, \; \bm{w}^{\perp} \in W^{\perp} とします。

    v=w+w⊥ \begin{gather*} \bm{v} = \bm{w} + \bm{w}^{\perp} \tag{⋆\star} \end{gather*}

  • いま、v∈(W⊥)⊥\bm{v} \in {(W^{\perp})}^{\perp} と w⊥\bm{w}^{\perp} の内積について、次が成り立ちます。

    v⋅w⊥=(w+w⊥)⋅w⊥=w⋅w⊥+w⊥⋅w⊥=0+w⊥⋅w⊥=∥ w⊥ ∥2 \begin{align*} \bm{v} \cdot \bm{w}^{\perp} &= (\bm{w} + \bm{w}^{\perp}) \cdot \bm{w}^{\perp} \\ &= \bm{w} \cdot \bm{w}^{\perp} + \bm{w}^{\perp} \cdot \bm{w}^{\perp} \\ &= 0 + \bm{w}^{\perp} \cdot \bm{w}^{\perp} \\ &= {\lVert \, \bm{w}^{\perp} \, \rVert}^{2} \end{align*}

  • 一方で、v∈(W⊥)⊥\bm{v} \in {(W^{\perp})}^{\perp} なので、v\bm{v} は任意の W⊥W^{\perp} の元と直交し、v⋅w⊥=0\bm{v} \cdot \bm{w}^{\perp} = 0 が成り立ちます。

  • よって、（⋆\star）式において、w⊥=0\bm{w}^{\perp} = \bm{0} となります。

    v⋅w⊥=0  ⟺  (i)∥ w⊥ ∥2=0  ⟺  (ii)w⊥=0 \begin{gather*} \bm{v} \cdot \bm{w}^{\perp} = 0 & \overset{(\text{i})}{\iff} & {\lVert \, \bm{w}^{\perp} \, \rVert}^{2} = 0 \\ & \overset{(\text{ii})}{\iff} & \bm{w}^{\perp} = \bm{0} \\ \end{gather*}

    • （ii\text{ii}）内積の公理より、∥ w⊥ ∥2=w⊥⋅w⊥=0{\lVert \, \bm{w}^{\perp} \, \rVert}^{2} = \bm{w}^{\perp} \cdot \bm{w}^{\perp} = 0 となるのは、w⊥=0\bm{w}^{\perp} = \bm{0} の場合に限られます。

  • したがって、v=w∈W\bm{v} = \bm{w} \in W となります。

  • つまり、w∈(W⊥)⊥\bm{w} \in {(W^{\perp})}^{\perp} ならば W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp} が成り立つので、(W⊥)⊥⊂W{(W^{\perp})}^{\perp} \subset W となります。

証明のまとめ
  • 以上から、W⊂(W⊥)⊥W \subset {(W^{\perp})}^{\perp}、かつ、(W⊥)⊥⊂W{(W^{\perp})}^{\perp} \subset W であることが示されました。
  • したがって、(W⊥)⊥=W{(W^{\perp})}^{\perp} = W が成り立ちます。

まとめ

  • VV を KK 上の計量ベクトル空間として、WW を VV の部分空間とする。任意の WW の元に直交するベクトル全体の集合は VV の部分空間であり、これを WW の直交補空間といい、W⊥W^{\perp} と表す。

    W⊥={ v∈V∣∀w∈W,v⋅w=0 } \begin{align*} W^{\perp} = \left\{\, \bm{v} \in V \mid {}^{\forall} \bm{w} \in W, \bm{v} \cdot \bm{w} = 0 \,\right\} \end{align*}

  • VV を KK 上の計量ベクトル空間とする。WW を VV の部分空間として、W⊥W^{\perp} を WW の直交補空間とすると、次が成り立つ。

    (1)V=W⊕W⊥(2)dim⁡V=dim⁡W+dim⁡W⊥(3)(W⊥)⊥=W \begin{align*} & (1) && V = W \oplus W^{\perp} \\ & (2) && \dim V = \dim W + \dim W^{\perp} \\ & (3) && {(W^{\perp})}^{\perp} = W \\ \end{align*}

    • （11）直交補空間は補空間であり、計量ベクトル空間 VV は、部分空間 WW とその直交補空間 W⊥W^{\perp} の直和に分解される。
    • （22）計量ベクトル空間 VV の次元は、部分空間 WW の次元とその直交補空間 W⊥W^{\perp} の次元の和に等しい。
    • （33）ある部分空間 WW の直交補空間 W⊥W^{\perp} の直交補空間 (W⊥)⊥{(W^{\perp})}^{\perp} は、もとの部分空間 WW に等しい。

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[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版：2023-11-19   |   改訂：2025-03-22
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