計量同型写像であるための条件
線型写像 $f : V \to W$ が計量同型写像であるためには、$f$ が $V$ の正規直交基底を $W$ の正規直交基底に移すことが必要にして十分です。
これは、計量ベクトル空間の基底の観点から、ある写像が計量同型写像であるための必要十分条件を示すものです。
計量同型写像と正規直交基底
定理 7.18(計量同型写像と正規直交基底)
$V, W$ を次元の等しい計量ベクトル空間として、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ を $V$ の正規直交基底とする。$f : V \to W$ を線形写像とすると、$f$ が計量同型写像であるためには、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の正規直交基底であることが必要にして十分である。
解説
計量同型であることと同値な条件
定理 7.18(計量同型写像と正規直交基底)は、ある写像が計量同型であることと同値な条件を示すものです。
前提条件
定理 7.18(計量同型写像と正規直交基底)において、次の $2$ つの条件は前提となっています。
- $f$ の定義域と値域にあたる計量ベクトル空間 $V$ と $W$ の次元が等しいこと。
- $f$ が線型写像であること、すなわち $f$ が和とスカラー倍の演算を保存すること。
特に、$V$ と $W$ の次元が等しいことは、$V$ と $W$ が同型であるための必要条件です( 定理 4.41(ベクトル空間が同型であることと同値な条件))。逆にいえば、$V$ と $W$ の次元が異なるとき、$V$ と $W$ は同型になり得ません。
正規直交基底を正規直交基底に移すこと
このような条件の下、線型写像 $f : V \to W$ が計量同型写像であることと、$f$ が $V$ の正規直交基底を $W$ の正規直交基底に移すことは同値となります。
また、線型写像 $f : V \to W$ が、$V$ の正規直交基底を $W$ の正規直交基底に移すということは、$V$ の正規直交基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の $f$ による像 $f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の正規直交基底になるということに他なりません。
計量同型であることと同値な条件(まとめ)
前項に示した 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)も、 定理 7.18(計量同型写像と正規直交基底)と同様に、線形写像が計量同型であることと同値な条件を示すものです。
これらをまとめて表すと、次のようになります。すなわち、次の $5$ つの条件は互いに同値です。
($2$)$f$ は内積の値を保存する。
($3$)$f$ はノルムの値を保存する。
($4$)$f$ は単位ベクトルを単位ベクトルに移す。
($5$)$f$ は正規直交基底を正規直交基底に移す。
定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)との関係
上記の条件($2$)$\sim$($5$)は、いずれも $f : V \to W$ が計量同型写像であるための必要十分条件です。
ここで、条件($2$)$\sim$($4$)は 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)によるものであり、条件($5$)は 定理 7.18(計量同型写像と正規直交基底)によるものです。
また、下記の 証明に示すように、 定理 7.18を示すためには 定理 7.17が必要となります。このような意味で、条件($2$)$\sim$($4$)の方が、条件($5$)よりも、より基礎的な( 計量同型写像の定義に近い)条件であると考えることもできます。
証明
$f$ が線型同型写像であるとすると、 定義より $f$ は内積の値を保存するので、次が成り立つ。
したがって、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ は正規直交系であり、 定理 7.8(直交系をなすベクトル)より、直交系をなすベクトルは線型独立であるから、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ は線型独立である。また、定理の仮定より $\dim W = n$ であるから、$n$ 個の線型独立なベクトル $f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n}) \in W$ は $W$ の基底となる。したがって、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ は $W$ の正規直交基底である。
逆に、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の正規直交基底であるとして、$f$ が計量同型写像であることを示す。いま、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として、次のように表すとすると、
$f (\bm{x})$ と $f(\bm{y})$ の内積について、次が成り立つ。
したがって、$f$ は内積の値を保存するから、 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)より、$f$ は線型同型写像である。$\quad \square$
証明の考え方
($1$)$f :V \to W$ が計量同型写像であることと($2$)$f$ が $V$ の正規直交基底を $W$ の正規直交基底に移すことの同値性を示します。
($1$)$\Rightarrow$($2$)の証明
- $f$ を計量同型写像であるとして、$V$ の正規直交基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の像 $f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の正規直交基底となることを示します。
正規直交系であることの証明
まず、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が 正規直交系であることを示します。
$f$ が線型同型写像であるならば、 定義より $f$ は内積の値を保存します。
したがって、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ の内積について考えると、$1 \leqslant i, \, j \leqslant n$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} f(\bm{v}_{i}) \cdot f(\bm{v}_{j}) &= \bm{v}_{i} \cdot \bm{v}_{j} \\ &= \delta_{ij} \end{align*} $$- ここで $\delta_{ij}$ はクロネッカーのデルタであり、$i = j$ ならば $\delta_{ij} = 1$、$i \neq j$ ならば $\delta_{ij} = 0$ となります。
これは、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が正規直交系であることを示す式に他なりません。
基底であることの証明
- 次に、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の基底であることを示します。
- 定理 7.8(直交系をなすベクトル)より、直交系をなすベクトルは線型独立となるので、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ は線型独立であるといえます。
- また、定理の仮定より $\dim W = \dim V = n$ であるから、$n$ 個の線型独立なベクトル $f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ は $W$ の基底であるといえます( 定理 4.32(次元が明らかな場合の基底の条件))。
- 以上から、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の正規直交基底であることが確かめられました。
($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明
$f$ が $V$ の正規直交基底を $W$ の正規直交基底に移すとして、$f$ が計量を保つ(内積の値を保存する)ことを導きます。
- つまり、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ に対して $f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ が成り立つことを示せばよいということです。
定理の仮定より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の正規直交基底であるので、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として一意に表せます( 定理 4.28(基底であることと同値な条件))。
$$ \begin{align*} \bm{x} &= x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n} \; , \\ \bm{y} &= y_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + y_{n} \bm{v}_{n} \\ \end{align*} $$このとき、$f(\bm{x})$ と $f(\bm{y})$ の内積を考えると、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) &\overset{(\text{i})}{=} f(x_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + x_{n} \bm{v}_{n}) \\ &\quad \; \cdot f(y_{1} \bm{v}_{1} + \cdots + y_{n} \bm{v}_{n}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \big(\, x_{1} f(\bm{v}_{1}) + \cdots + x_{n} f(\bm{v}_{n}) \,\big) \\ &\quad \; \cdot \big(\, y_{1} f(\bm{v}_{1}) + \cdots + y_{n} f(\bm{v}_{n}) \,\big) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} x_{1} \overline{y_{1} \vphantom{i}} + \cdots + x_{n} \overline{y_{n} \vphantom{i}} \vphantom{\Big(\Big)} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \bm{x} \cdot \bm{y} \vphantom{\Big(\Big)} \\ \end{align*} $$- ($\text{i}$)$\bm{x}$ と $\bm{y}$ を、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表します。
- ($\text{ii}$)前提として、$f$ が線型写像であることによります。
- ($\text{iii}$)定理の家庭より、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が正規直交基底であることによります。
- ($\text{ii}$)は、$n$ 個のベクトル $f(\bm{v}_{i})$ の和と $n$ 個のベクトル $f(\bm{v}_{j})$ の和の内積の形となっています。
- 内積に関して分配法則が成り立つ( 内積の公理)ので、括弧をはずすことで、($\text{ii}$)は $n^{2}$ 個の $f(\bm{v}_{i}) \cdot f(\bm{v}_{j})$ という形の内積の和に展開されます。
- しかしながら、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が正規直交基底であることから、$f(\bm{v}_{i}) \cdot f(\bm{v}_{j}) = \delta_{ij}$ となるので、結局、$i = j$ となる項($n$ 個)の和のみが残ります。
- ($\text{iv}$)定理の仮定より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ は $V$ の正規直交基底なので、$\bm{x} \cdot \bm{y} = x_{1} \overline{y_{1} \vphantom{i}} + \cdots + x_{n} \overline{y_{n} \vphantom{i}}$ が成り立ちます。
以上から、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ に対して $f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ が成り立つことが示されました。
これは、$f$ が内積の値を保存するということに他ならず、 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)より、$f$ は線型同型写像であるといえます。
まとめ
- $V, W$ を次元の等しい計量ベクトル空間として、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ を $V$ の正規直交基底とする。$f : V \to W$ を線形写像とすると、$f$ が計量同型写像であるためには、$f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n})$ が $W$ の正規直交基底であることが必要にして十分である。
- 前項の 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)と、 定理 7.18(計量同型写像と正規直交基底)より、次の $5$ つの条件は互いに同値である。
($2$)$f$ は内積の値を保存する。
($3$)$f$ はノルムの値を保存する。
($4$)$f$ は単位ベクトルを単位ベクトルに移す。
($5$)$f$ は正規直交基底を正規直交基底に移す。
参考文献
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