ユニタリ行列の定義
随伴行列が逆行列となる正方行列を、ユニタリ行列といいます。
ここでは、ユニタリ行列を定義するとともに、その基本的な性質について示します。
ユニタリ行列の定義#
まず、ユニタリ行列と直交行列の定義を示します。
定義 7.11(ユニタリ行列と直交行列)#
正方行列 A が次の式を満たすとき、A をユニタリ行列(unitary matrix)という。特に、実ユニタリ行列を直交行列(orthogonal matrix)という。
A∗A=AA∗=E(7.5.3)
ユニタリ行列とは:逆行列が随伴行列である正方行列#
ユニタリ行列とは、A∗A=AA∗=E を満たす正方行列です。
ユニタリ行列の定義式である(7.5.3)式は、正方行列 A が正則であり、その逆行列が随伴行列 A∗ に等しいことを意味しています(逆行列の定義)。
すなわち、すなわち、ユニタリ行列とは、随伴行列がもとの行列の逆行列に等しくなるような正方行列であるといえます。
したがって、正方行列 A がユニタリ行列であるための条件(必要十分条件)は、次のようにも表せます。
A−1=A∗ 直交行列とは:実ユニタリ行列#
実ユニタリ行列のことを、特に、直交行列いいます。すなわち、直交行列とは、すべての成分が実数であるようなユニタリ行列のことです。
直交行列が満たす関係式#
いま、正方行列 A が実行列である場合(すなわち、A∈Mn(R) の場合)に限って考えると、A の共役行列は A 自身に等しいので、A の随伴行列は転置行列に等しくなります。
A∗=tA()=tA したがって、A が直交行列であるならば、A は次を満たします。
tAA=AtA=E(7.5.4) 直交行列であるための条件(必要十分条件)#
ここで、(7.5.4)式は、正方行列 A が直交行列であるための必要条件ではあるものの、十分条件ではないことに注意が必要です。
すなわち、直交行列は(7.5.4)式を満たしますが、(7.5.4)式を満たす行列が直交行列であるとはいえません。A が直交行列であるためには、A が実行列であり、かつユニタリ行列であることが必要にして十分であるためです。
(7.5.4)式は、A が実行列である場合に、A が直交行列であることを示す式です。しかしながら、複素行列で(7.5.4)式を満たすような行列を考えることができます。例えば、次のような行列 B は、tBB=BtB=E を満たしますが、直交行列ではありません。(当然ながら、B はユニタリ行列でもありません。)
B=31(2ii−2)
ユニタリ行列の基本的な性質#
ユニタリ行列の基本的な性質として、次の 2 つの定理を示します。
定理 7.23(ユニタリ行列の積)#
n 次正方行列 A,B がユニタリ行列であれば、AB もユニタリ行列である。
2 つの行列 A,B の積の随伴行列について、(AB)∗=B∗A∗ であることから、次が成り立つ。
(AB)∗AB=A∗B∗BA=A∗(B∗B)A=A∗A=E また、同様にして、AB(AB)∗ が成り立つ。したがって、(AB)∗AB=AB(AB)∗=E であるから、AB はユニタリ行列である。□
証明の考え方#
前項に整理した随伴行列の基本的な性質より、2 つの行列の積の随伴行列について、(AB)∗=B∗A∗ が成り立つことから直ちに導くことができます。
定理 7.24(ユニタリ行列の行列式)#
ユニタリ行列の行列式は、絶対値が 1 の複素数に等しい。
A をユニタリ行列とすると、A∗A=AA∗=E であることから、次が成り立つ。
AA∗=E=1 また、随伴行列の定義より、次が成り立つ。
AA∗=AA∗=AtA()=AA()=AA() したがって、AA()=1 が成り立つ。よって、A の行列式の絶対値は 1 の複素数に等しい。□
証明の考え方#
随伴行列の定義と行列式の性質より明らかといえます。
まず、A をユニタリ行列とすると、A∗A=AA∗=E であることから、次が成り立ちます。
AA∗=E=1 また、上式の左辺について、次が成り立ちます。
AA∗=(i)AA∗=(ii)AtA()=(iii)AA()=(iv)AA() (i)行列の積の行列式が、それぞれの行列式の積に等しいことによります(定理 3.15(行列式の積))。すなわち、2 つの行列 A,B について、次が成り立ちます。
AB=AB (ii)随伴行列の定義によります。
(iii)転置行列の行列式が、もとの行列の行列式に等しいことによります(定理 3.13(転置行列の行列式))。すなわち、行列 A とその転置行列 tA について、次が成り立ちます。
tA=A (iv)共役行列の行列式が、もとの行列の行列式の複素共役に等しいことによります。すなわち、行列 A とその共役行列 A() について、次が成り立ちます。
A()=A() これは、行列式の定義と、複素共役の基本的性質(和と積の演算を保存すること)から明らかといえます。
以上から、次が成り立つことが示されました。
AA()=1 これは、A の行列式 A の絶対値が 1 の複素数に等しいことを意味する式に他なりません。
まとめ#
正方行列 A が、次の式を満たすとき、A をユニタリ行列という。
A∗A=AA∗=E - 特に、実ユニタリ行列を直交行列(orthogonal matrix)という。
n 次正方行列 A,B がユニタリ行列であれば、AB もユニタリ行列である。
ユニタリ行列の行列式は、絶対値が 1 の複素数に等しい。
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初版:2025-04-05 | 改訂:2025-04-11