ユニタリ行列の固有値
ユニタリ行列の固有値は、絶対値が の複素数に等しくなります。
また、ユニタリ行列により定まるユニタリ変換の固有値も、絶対値が の複素数に等しくなります。
ユニタリ行列の固有値
定理 7.27(ユニタリ行列の固有値)
をユニタリ行列とすると、 の固有値 は、絶対値が の複素数に等しい。
解説
ユニタリ行列の固有値の絶対値は
ユニタリ行列の固有値は、絶対値が の複素数に等しくなります。
いま、 を 次のユニタリ行列とすると、 の固有方程式は 次方程式となります(定理 6.3(固有方程式))。
また、代数学の基本定理より、「 次方程式は複素数の範囲で重複を含めて 個の解を持」ちます。したがって、複素数の範囲で考えれば、 は 個の複素数を持つことになります。
このとき、 の 個の固有値すべてが絶対値 の複素数である、というのが定理 7.27(ユニタリ行列の固有値)の主張です。
直交行列の固有値は(存在すれば) または
直交行列の固有値は、存在するとすれば、 または に等しくなります。
定理 6.3(固有方程式)でみたように、実数の範囲で考えれば、 次方程式は必ずしも 個の解を持つとは限りません。
したがって、 を 次の直交行列(すべての成分が実数であるユニタリ行列)とすると、 は必ずしも 個の固有値を持つとは限りません。
仮に、 が固有値を持つとすれば、その固有値は実数であり、かつ(7.5.5)式を満たすことになります。よって、このとき、 の固有値は絶対値が の実数、すなわち または に等しくなります。
ユニタリ変換の固有値
定理 6.1(線型写像とその表現行列の固有値)より、ある線型変換の固有値全体は、その表現行列の固有値全体に等いです。逆に、ある正方行列の固有値全体は、その行列により定まる線型変換の固有値全体に等しくなります。
このことから、定理 7.27(ユニタリ行列の固有値)は、ユニタリ行列 により定まる、ユニタリ変換 の固有値に関する定理と捉えることができます。
ユニタリ変換の固有値の絶対値は
いま、 を 上の計量ベクトル空間として、 を線型変換とします。
このとき、定理 7.27(ユニタリ行列の固有値)より、 がユニタリ変換であるならば、 の固有値 は絶対値が の複素数に等しいといえます。
直交変換の固有値は(存在すれば) または
また、 の場合に限って考えれば、定理 7.27(ユニタリ行列の固有値)は、直交行列により定まる直交変換の固有値に関する定理と捉えられます。
つまり、 が直交変換であり、固有値を持つとすれば、 の固有値 は絶対値が の実数、すなわち または に等しくなるということです。
証明
を 次の正方行列として、 の固有値を 、固有ベクトルを とすると、次が成り立つ。
また、 を から への線型変換と考えると、 はユニタリ変換であるから、定義より、次が成り立つ。
したがって、
証明の考え方
固有値と固有ベクトルの定義、および、ユニタリ変換の定義から示します。
定理 7.26(ユニタリ変換とユニタリ行列)の証明と同様に、ユニタリ行列
固有値と固有ベクトルの関係式
をA A 次の正方行列として、n n の固有値をA A 、固有ベクトルをλ A \lambda_{A} とします。x ∈ K n \bm{x} \in K^{n} このとき、固有値と固有ベクトルの定義より、次の関係式が成り立ちます。
A x = λ A x \begin{align*} A \, \bm{x} = \lambda_{A} \, \bm{x} \end{align*} 上式の両辺(数ベクトル)のノルムをとると、次のようになります。
∥ A x ∥ = ( i ) ∥ λ A x ∥ = ( ii ) ∣ λ A ∣ ∥ x ∥ \begin{align*} \big\lVert \, A \, \bm{x} \, \big\rVert &\overset{(\text{i})}{=} \big\lVert \, \lambda_{A} \, \bm{x} \, \big\rVert \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \lvert \, \lambda_{A} \, \rvert \, \big\lVert \, \bm{x} \, \big\rVert \tag*{( )} \\ \end{align*}∗ \ast - (
)固有値と固有ベクトルの定義によります。i \text{i} - (
)ベクトルのノルムの性質によります(定理 7.4(ベクトルのノルム))。ii \text{ii}
- (
ユニタリ変換の性質
- いま、
をA A からK n K^{n} への線型変換と考えると、K n K^{n} はA A のユニタリ変換であるといえます。K n K^{n} - これは、定理 7.26(ユニタリ変換とユニタリ行列)の証明と同様の考え方です。
- ユニタリ変換はノルムの値を保存する(ユニタリ変換の定義)ので、次が成り立ちます。
∥ A x ∥ = ∥ x ∥ \begin{align*} \big\lVert \, A \, \bm{x} \, \big\rVert = \big\lVert \, \bm{x} \, \big\rVert \tag*{( )} \\ \end{align*}∗ ∗ \ast \ast
証明のまとめ
(
)式と(∗ \ast )式より、次が成り立ちます。∗ ∗ \ast\ast ∣ λ A ∣ ∥ x ∥ = ∥ x ∥ ⇔ ∣ λ A ∣ = 1 \begin{align*} && \lvert \, \lambda_{A} \, \rvert \, \big\lVert \, \bm{x} \, \big\rVert &= \big\lVert \, \bm{x} \, \big\rVert \\ & \Leftrightarrow & \lvert \, \lambda_{A} \, \rvert &= 1 \\ \end{align*} これは、ユニタリ行列
の固有値A A が絶対値λ A \lambda_{A} の複素数に等しいことを表す式に他なりません。1 1 以上から、題意が示されました。
まとめ
をユニタリ行列とすると、A A の固有値A A は、絶対値がλ A \lambda_{A} の複素数に等しい。1 1 ∣ λ A ∣ = 1 \begin{align*} \big\lvert \, \lambda_{A} \, \big\rvert = 1 \end{align*} を直交行列とすると、固有値は(存在すれば)A A または1 1 に等しい。− 1 -1
をユニタリ変換とすると、f A f_{A} の固有値f A f_{A} は、絶対値がλ A \lambda_{A} の複素数に等しい。1 1 を直交変換とすると、固有値は(存在すれば)A A または1 1 に等しい。− 1 -1
参考文献
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