平行四辺形の面積
平面上のベクトルにより作られる平行四辺形や三角形の面積が、ベクトルの長さと内積によって表されることを示します。
ここで示す求積法は、平行四辺形や三角形の頂点の座標が与えられている場合に特に有効であり、他の求積法に比べてかなり少ない計算で面積を計算することができます。
ベクトルが作る平行四辺形の面積
定理 1.7(平行四辺形の面積)
平面上の つのベクトル が作る平行四辺形の面積 は次の式で与えられる。
解説
ベクトルが作る平行四辺形の面積
平面上の つのベクトルにより作られる平行四辺形の面積は、それぞれのベクトルの長さと内積によって(1.2.8)式のように表すことができます。
つのベクトル が作る平行四辺形とは、それぞれ としたとき、 を隣り合う 辺として持つ平行四辺形のことです。 とすれば、これは、下図の平行四辺形 に他なりません。

ベクトルが作る三角形の面積
定理 1.7(平行四辺形の面積)より、平面上の つのベクトル が作る三角形の面積 が次の式で与えられることがわかります。
これは、上図において であり、 の面積は平行四辺形 のちょうど半分、すなわち であることから明らかといえます。
ベクトルが作る図形の求積法(定理 1.7の意義)
定理 1.7(平行四辺形の面積)は、ベクトルの長さと内積を計算することで平行四辺形や三角形の面積が求められることを示しています。しかしながら、しかしながら、求積法として定理 1.7がそのまま適用できる場合は限られています。
定理 1.7を適用しない方が良い場合
辺の長さや内角の大きさがわかっている場合、三角比( など)により高さを求めて、次のような基本的な公式を適用した方が簡単です。
- (平行四辺形の面積)(底辺)(高さ)
- (三角形の面積)(底辺)(高さ)
辺の長さや内角の大きさがわかっている場合、内積の値を計算してから(1.2.8)式や(1.2.9)式により面積を計算する方法は効率的ではありません。
定理 1.7による求積法が有効な場合
定理 1.7による求積法が有効になるのは、平面上に座標系が与えられており、平行四辺形や三角形を作るベクトルが成分表示されている場合です。この場合、定理 1.7による求積法は非常に強力なものとなります。
具体的な求積法については、以下の系 1.8(平行四辺形の面積)にまとめます。
証明(定理 1.7)
つのベクトル のなす角を 、 が作る平行四辺形の面積を とすると、 であるから、次が成り立つ。
いま、定理 1.5(シュワルツの不等式)より、 であるから、 が成り立つ。また、 であることから、 について次が成り立つ。
証明の考え方(定理 1.7)
内積の定義と定理 1.5(シュワルツの不等式)を用います。
まず、平行四辺形の面積
のS S 乗を求めます。2 2 - 平行四辺形を作る
つのベクトルを2 2 として、a , b \bm{a}, \bm{b} とa \bm{a} のなす角をb \bm{b} θ \theta とします。( 0 ⩽ θ ⩽ π ) \, (0 \leqslant \theta \leqslant \pi) - 平行四辺形の面積は
により計算できるので、S = ∥ a ∥ ∥ b ∥ sin θ S = \lVert \, \bm{a} \, \rVert \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert \sin \theta は次のようになります。S 2 S^{2} S 2 = ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 sin 2 θ = ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 ( 1 − cos 2 θ ) = ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( ∥ a ∥ ∥ b ∥ cos θ ) 2 = ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( a ⋅ b ) 2 \begin{align*} S^{2} &= \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} \, \sin^{2} \theta \\ &= \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} \, (1 - \cos^{2} \theta) \\ &= \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - \, (\lVert \, \bm{a} \, \rVert \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert \cos \theta)^{2} \\ &= \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - \, (\bm{a} \cdot \bm{b})^{2} \\ \end{align*}
- 平行四辺形を作る
両辺を
乗して、1 2 \displaystyle \frac{\, 1 \,}{\, 2 \,} に関する(1.2.8)式を導きます。S S - 定理 1.5(シュワルツの不等式)より
であることから、∥ a ∥ ∥ b ∥ ⩾ a ⋅ b \lVert \, \bm{a} \, \rVert \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert \geqslant \bm{a} \cdot \bm{b} が成り立ちます。∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( a ⋅ b ) 2 ⩾ 0 \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - \, (\, \bm{a} \cdot \bm{b} \,)^{2} \geqslant 0 - また、当然ながら
であるので、次が成り立ちます。S ⩾ 0 S \geqslant 0 S = a 1 2 ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( a ⋅ b ) 2 \begin{gather*} S = \sqrt{\, \vphantom{a_{1}^{2}} \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - (\bm{a} \cdot \bm{b})^{2} \,} \end{gather*}
- 定理 1.5(シュワルツの不等式)より
以上から、題意が示されました。
成分表示されたベクトルが作る平行四辺形の求積法
定理 1.7(平行四辺形の面積)を用いた求積法を示します。
系 1.8(平行四辺形の面積)
平面上に座標系が与えられており、平面上のベクトル
このとき、
解説
定理 1.7による求積法
上記の考察の通り、ベクトルが作る図形の求積法として定理 1.7(平行四辺形の面積)がそのまま適用できる場合は限られています。定理 1.7による求積法が有効になるのは、平面上に座標系が与えられており、平行四辺形や三角形を作るベクトルが成分表示されている場合です。
成分表示されたベクトルが作る平行四辺形の面積(系 1.8の主張)
系 1.8(平行四辺形の面積)は、平行四辺形の面積が
平行四辺形を作る
また、以下の計算例に示す通り、系 1.8による求積法は、平行四辺形(または三角形)をなす頂点の座標が与えられている場合にも有効です。与えられた座標から、平行四辺形(または三角形)を作るベクトルの成分が直ちに計算できるからです(ベクトルの成分表示)。
成分表示されたベクトルが作る三角形の面積
系 1.8(平行四辺形の面積)より、平面上の
これは、上記の定理 1.7(平行四辺形の面積)の場合の考察と同様に、
証明(定理 1.8)
定理 1.7(平行四辺形の面積)より、次が成り立つ。
証明の考え方(定理 1.8)
定理 1.7(平行四辺形の面積)から直ちに導けます。
定理 1.7(平行四辺形の面積)の(1.2.8)式を、ベクトルの成分表示により計算していきます。
S = ( i ) a 1 2 ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( a ⋅ b ) 2 = ( ii ) ( a 1 2 + a 2 2 ) ( b 1 2 + b 2 2 ) − ( a 1 b 1 + a 2 b 2 ) 2 = ( iii ) a 1 2 ( a 1 b 2 ) 2 + ( a 2 b 1 ) 2 − 2 ( a 1 b 2 ) ( a 2 b 1 ) = ( iv ) a 1 2 ( a 1 b 2 − a 2 b 1 ) 2 = ( v ) ∣ a 1 b 2 − a 2 b 1 ∣ \begin{align*} S &\overset{(\text{i})}{=} \sqrt{\, \vphantom{a_{1}^{2}} \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - (\bm{a} \cdot \bm{b})^{2} \,} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \sqrt{\, (\, a_{1}^{2} + a_{2}^{2} \,) \, (\, b_{1}^{2} + b_{2}^{2} \,) - (\, a_{1} b_{1} + a_{2} b_{2} \,)^{2} \,} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \sqrt{\, \vphantom{a_{1}^{2}} (a_{1} b_{2})^{2} + (a_{2} b_{1})^{2} - 2 \, (a_{1} b_{2}) \, (a_{2} b_{1}) \,} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} \sqrt{\, \vphantom{a_{1}^{2}} (\, a_{1} b_{2} - a_{2} b_{1} \,)^{2} \,} \\ &\overset{(\text{v})}{=} \big\lvert \; a_{1} b_{2} - a_{2} b_{1} \; \big\rvert \\ \end{align*} - (
)定理 1.7(平行四辺形の面積)によります。i \text{i} - (
)内積の定義と定理 1.3(ベクトルの内積)によります。ベクトルii \text{ii} それぞれの長さと、a , b \bm{a}, \bm{b} とa \bm{a} の内積を、b \bm{b} とa \bm{a} の成分により計算します。b \bm{b} - (
)(iii \text{iii} )式を展開してまとめると、iv \text{iv} とa 1 b 2 a_{1} b_{2} に関するa 2 b 1 a_{2} b_{1} 次式となります。2 2 - (
)根号を外します。v \text{v} の値の正負は定まりませんので、絶対値の記号が残ります。a 1 b 2 − a 2 b 1 a_{1} b_{2} - a_{2} b_{1}
- (
計算例(ベクトルが作る三角形の面積)
定理 1.7(平行四辺形の面積)と系 1.8(平行四辺形の面積)を用いた三角形の面積の計算例を示します。
実際の計算においては、系 1.8を直接的に用います。この求積法は、平行四辺形や三角形の頂点の座標のみが与えられている場合、他の求積法よりも計算が少なく済むため、より有効な方法となります。
例題(三角形の面積)
平面上に直交座標が与えられているとき、
解答
座標
解答の考え方
与えられた頂点の座標から、三角形を作る
当然ながら、どの辺を
このように、平行四辺形または三角形の頂点の座標のみ与えられている場合、他の求積法(例えば、三平方の定理から底辺の長さを求め、点と直線の距離により(平行四辺形または三角形の)高さを求める方法)に比べて、かなり少ない計算量で面積を求めることができます。
まとめ
平面上の
つのベクトル2 2 が作る平行四辺形の面積a , b \bm{a}, \bm{b} 、三角形の面積S S は次の式で与えられる。S ′ S^{\prime} S = a 1 2 ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( a ⋅ b ) 2 S ′ = 1 2 a 1 2 ∥ a ∥ 2 ∥ b ∥ 2 − ( a ⋅ b ) 2 \begin{align*} S &= \sqrt{\, \vphantom{a_{1}^{2}} \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - (\bm{a} \cdot \bm{b})^{2} \,} \\ \\ S^{\prime} &= \frac{\, 1 \,}{\, 2 \,} \sqrt{\, \vphantom{a_{1}^{2}} \lVert \, \bm{a} \, \rVert^{2} \, \lVert \, \bm{b} \, \rVert^{2} - (\bm{a} \cdot \bm{b})^{2} \,} \end{align*} 平面上に座標系が与えられており、平面上のベクトル
が次のように成分表示されるとする。a , b \bm{a}, \bm{b} a = ( a 1 a 2 ) , b = ( b 1 b 2 ) \begin{array} {cc} \bm{a} = \begin{pmatrix} \, a_{1} \, \\ \, a_{2} \, \end{pmatrix}, & \bm{b} = \begin{pmatrix} \, b_{1} \, \\ \, b_{2} \, \end{pmatrix} \end{array} このとき、
が作る平行四辺形の面積a , b \bm{a}, \bm{b} 、三角形の面積S S は次の式で与えられる。S ′ S^{\prime} S = ∣ a 1 b 2 − a 2 b 1 ∣ S ′ = 1 2 ∣ a 1 b 2 − a 2 b 1 ∣ \begin{align*} S &= \big\lvert \; a_{1} b_{2} - a_{2} b_{1} \; \big\rvert \\ \\ S^{\prime} &= \frac{\, 1 \,}{\, 2 \,} \big\lvert \; a_{1} b_{2} - a_{2} b_{1} \; \big\rvert \end{align*}
参考文献
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[6] 雪江明彦. 代数学
[7] 雪江明彦. 代数学
[8] 桂利行. 代数学
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
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[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.