空間内の点と直線の距離

空間内の点と直線の距離を与える公式を導きます。

空間内の点と直線の距離を与える公式は、平面上の点と直線の距離を与える公式と同じ形になります。しかしながら、空間の場合、座標から点と直線の距離を計算する簡潔な公式はありません。

空間内の点と直線の距離


定理 1.12(空間内の点と直線の距離)

空間内の直線 ll がベクトル方程式 x=x0+ta\bm{x} = \bm{x}_{0} + t \bm{a} により与えられているとする。このとき、空間内の点 X1X_{1} の位置ベクトルを x1\bm{x}_{1} とすると、点 X1X_{1} と直線 ll の距離 dd は次の式により与えられる。

d=x1x02a2{(x1x0)a}2avp1 \begin{equation*} \tag{1.4.7} d = \displaystyle \frac{\, \sqrt{\, {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{0} \, \rVert}^{2} {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} - \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,} \,}{\, \lVert \, \bm{a} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ \end{equation*}



解説

方向ベクトルによる点と直線の距離の公式

(1.4.7)式は空間内の任意の点と直線の距離を与える公式です。

空間内の直線を表すベクトル方程式は、平面上の直線を表す(方向ベクトルによる)ベクトル方程式と同じ形になります(空間内の直線の方程式を参照)。

したがって、空間内の点と直線の距離を与える公式も、方向ベクトルによる平面上の点と直線の公式(すなわち、定理 1.9(平面上の点と直線の距離(方向ベクトル)))と同じ形になります。

点と直線の距離を定めるベクトル

(1.4.7)式より、点と直線の距離は、点 X1X_{1} の位置ベクトル x1\bm{x}_{1} と直線 ll を定めるベクトル(x0\bm{x}_{0}a\bm{a})により定まることがわかります。

X1X_{1} と直線 ll の距離 dd は、次のように図示されます。

方向ベクトルに関するベクトル方程式により表される空間内の点と直線の距離の公式

上図において、点 X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足を X1X_{1}^{\prime} とすると、点 X1X_{1} と直線 ll の距離 dd は線分 X1X1X_{1} X_{1}^{\prime} の長さに他なりません。すなわち、d=X1X1d = X_{1} X_{1}^{\prime} であり、X1X_{1}^{\prime} の位置ベクトルを x1\bm{x}_{1}^{\prime} とすれば、d=x1x1d = \lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert となります。

ただし、垂線の足 X1X_{1}^{\prime} の位置ベクトル x1\bm{x}_{1}^{\prime} は、点と直線の距離を定める公式(1.4.7)式には表れません。これは、点 X1X_{1} と直線 ll が定まっていれば、X1X_{1} から ll に下ろした垂線の足が(自ずから)ただ 11 つに定まるためです。

座標系が与えられている場合

平面上の点と直線の距離の公式(座標変数)

平面上に直交座標系が与えられている場合、点と直線の距離を与える公式は次のように簡潔に表せました(定理 1.10(平面上の点と直線の距離(座標変数)))。

d=  αx1+βy1+γ  α2+β2VP1(1.3.7) \begin{equation*} d = \displaystyle \frac{\, \lvert \; \alpha x_{1} + \beta y_{1} + \gamma \; \rvert \,}{\, \sqrt{\, {\alpha}^{2} + {\beta}^{2} \vphantom{ {\bm{VP}}^{1} } \,} \,} \end{equation*} \tag{1.3.7}

すなわち、平面上の直線 ll が座標変数 x,yx, y に関する一次方程式 αx+βy+γ=0\alpha x + \beta y + \gamma = 0 で与えられており、平面上の点 X1X_{1} の座標を (x1,y1)(x_{1}, y_{1}) としたとき、点 X1X_{1} と直線 ll の距離 dd(1.3.7)式で与えられます。

空間内の点と直線の場合、座標変数による距離の公式はない

一方で、空間に直交座標系が与えられている場合、このように与えられた座標から点と直線の距離を計算する簡潔な公式はありません。

空間内の直線の方程式で示したように、座標系が与えられているとき、空間内の直線は 22 つの一次方程式からなる連立方程式として表されます。つまり、空間内の直線を、座標変数を用いて単純な形の 11 つの式として表すことはできません。このような事情から、空間内の点と直線の距離に関して、(1.3.7)式に相当するような、簡潔な公式を作ることができないというわけです。

X1X_{1} の座標を (x1,y1,z1)(x_{1}, y_{1}, z_{1})、直線 ll の方向ベクトル a\bm{a} の成分を (a1,a2,a3)(a_{1}, a_{2}, a_{3}) として、(1.4.7)式から、次のように(無理やり)座標を用いて点と直線の距離を計算する式を導くことはできます。

d=1a12+a22+a32VP1[  {(x1x0)2+(y1y0)2+(z1z0)2}(a12+a22+a32){a1(x1x0)+a2(y1y0)+a3(z1z0)}2  ]12 \begin{split} d = \displaystyle \frac{\, 1 \,}{\, \sqrt{\, {a_{1}}^{2} + {a_{2}}^{2} + {a_{3}}^{2} \vphantom{ {\bm{VP}}^{1} } \,} \,} & \Big[\; \big\{\, (x_{1} - x_{0})^{2} + (y_{1} - y_{0})^{2} + (z_{1} - z_{0})^{2} \,\big\} \, ({a_{1}}^{2} + {a_{2}}^{2} + {a_{3}}^{2}) \\ & \qquad - \big\{\, a_{1} (x_{1} - x_{0}) + a_{2} (y_{1} - y_{0}) + a_{3} (z_{1} - z_{0}) \,\big\}^{2} \;\Big]^{\frac{\, 1 \,}{\, 2 \,}} \end{split}

しかしながら、これはとても簡潔な式とはいえず、実用的な解法としてもかなり無駄があります。したがって、これを公式として記憶する価値はありません。

点と直線の距離の求め方(実用的な解法)

X1X_{1} の座標や直線 ll を表す連立一次方程式が具体的に与えられている場合、点 X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足の座標を求める解法が有効です。

すなわち、まず、点 X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足 X1X_{1}^{\prime} の座標を求め、次に、垂線を表すベクトル (X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) の長さを求めることで、点 X1X_{1} と直線 ll の距離を計算するというアプローチです。

実際に、この解法を用いて空間内の点と直線の距離を計算した例を、下記の計算例に示します。



証明

X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足を X1X_{1}^{\prime} として、X1X_{1}^{\prime} の位置ベクトルを x1\bm{x}_{1}^{\prime} とする。このとき、垂線 X1X1X_{1} X_{1}^{\prime} が直線 ll に直交することと X1X_{1}^{\prime} が直線 ll 上の点であることから、x1\bm{x}_{1}^{\prime} に関して次が成り立つ。

{(x1x1)a=0x1=x0+ta \left\{ \begin{array} {c} (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime}) \cdot \bm{a} = 0 \\ \bm{x}_{1}^{\prime} = \bm{x}_{0} + t \bm{a} \end{array} \right.

したがって、

x1=x0+(x1x0)aa2  a \begin{gather*} \bm{x}_{1}^{\prime} = \bm{x}_{0} + \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{a} \end{gather*}

いま、d=x1x1d = \lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert であることから、d2d^{2} は次のようになる。

d2=x1x12=(x1x0)(x1x0)aa2  a2=(x1x0)22{(x1x0)a}2a2+{(x1x0)a}2a4  a2=(x1x0)2{(x1x0)a}2a2 \begin{split} d^{2} &= {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert}^{2} \\ &= {\Big\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) - \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{a} \, \Big\rVert}^{2} \\ &= {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} -2 \, \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \\ &\qquad \qquad \quad + \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{4} \,} \; {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \\ &= {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} - \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,}\\ \end{split}

定理 1.5(シュワルツの不等式)より、上式の右辺は 00 以上である。また、d0d \geqslant 0 であるから、次が成り立つ。

d=x1x02a2{(x1x0)a}2avp1 \begin{gather*} d = \displaystyle \frac{\, \sqrt{\, {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{0} \, \rVert}^{2} {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} - \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,} \,}{\, \lVert \, \bm{a} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ \end{gather*} \tag*{\square}



証明の考え方

垂線の足 X1X_{1}^{\prime} の位置ベクトルを x1\bm{x}_{1}^{\prime} として(11x1\bm{x}_{1}^{\prime} を他の定数ベクトルで表し、(22d=x1x1d = \lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert であることから、点と直線の距離を求めます。

考え方は、平面における点と直線の距離の公式(定理 1.9(平面上の点と直線の距離(方向ベクトル)))の証明と同じです。

(1)垂線の足の位置ベクトルを求める

  • X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足を X1X_{1}^{\prime} として、X1X_{1}^{\prime} の位置ベクトル x1\bm{x}_{1}^{\prime} を求めます。

  • x1\bm{x}_{1}^{\prime} に関して成り立つ関係式を整理します。

    • 垂線 X1X1X_{1} X_{1}^{\prime} は直線 ll に直交します。したがって、ベクトル x1\bm{x}_{1}x1\bm{x}_{1}^{\prime} の差 x1x1\bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} と直線 ll の方向ベクトル a\bm{a} も直交します。すなわち、(x1x1)a=0(\bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime}) \cdot \bm{a} = 0 が成り立ちます。
    • X1X_{1}^{\prime} は直線 ll 上の点です。したがって、x1\bm{x}_{1}^{\prime} は直線 ll を与えるベクトル方程式を満たします。すなわち、x1=x0+ta\bm{x}_{1}^{\prime} = \bm{x}_{0} + t \bm{a} が成り立ちます。
    • これらをまとめると、次の\ast)式のようになります。これは、x1\bm{x}_{1}^{\prime}tt を未知数とする連立方程式のように捉えることができます。
      {(x1x1)a=0x1=x0+ta() \left\{ \begin{array} {c} (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime}) \cdot \bm{a} = 0 \\ \bm{x}_{1}^{\prime} = \bm{x}_{0} + t \bm{a} \end{array} \right. \tag{\ast}
  • \ast)式を解いて x1\bm{x}_{1}^{\prime} を求めます。

    • 定理 1.4(内積の演算法則)より\ast)式の第 11 式は次のように変形できます。

      x1a=x1a \begin{gather*} \bm{x}_{1} \cdot \bm{a} = \bm{x}_{1}^{\prime} \cdot \bm{a} \end{gather*}

    • \ast)式の第 22 式の両辺のベクトルと方向ベクトル a\bm{a} の内積をとることで x1\bm{x}_{1}^{\prime} を消去し、まずは tt を求めます。ここでも、定理 1.4(内積の演算法則)x1a=x1a\bm{x}_{1} \cdot \bm{a} = \bm{x}_{1}^{\prime} \cdot \bm{a} であることを利用します。

      x1a=x0a+taax1a=x0a+ta2t=x1ax0a(vp)a2t=(x1x0)aa2 \begin{alignat*} {2} && \bm{x}_{1}^{\prime} \cdot \bm{a} &= \bm{x}_{0} \cdot \bm{a} + t \bm{a} \cdot \bm{a} \\ \Leftrightarrow \quad && \bm{x}_{1} \cdot \bm{a} &= \bm{x}_{0} \cdot \bm{a} + t \, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \\ \Leftrightarrow \quad && t &= \displaystyle \frac{\, \bm{x}_{1} \cdot \bm{a} - \bm{x}_{0} \cdot \bm{a} \vphantom{(\bm{vp})} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \\ \Leftrightarrow \quad && t &= \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \\ \end{alignat*}

    • 上式を\ast)式の第 22 式に代入すると、x1\bm{x}_{1}^{\prime} が次のように求まります。

      x1=x0+(x1x0)aa2  a \begin{gather*} \bm{x}_{1}^{\prime} = \bm{x}_{0} + \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{a} \end{gather*}

(2)点と直線の距離を求める

  • 11で求めた x1\bm{x}_{1}^{\prime} を用いて、d=x1x1d = \lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert であることから、点と直線の距離を求めます。

  • まず、d2d^{\, 2} を求めます。

    d2=(i)x1x12=(ii)(x1x0)(x1x0)aa2  a2=(iii)(x1x0)22{(x1x0)a}2a2+{(x1x0)a}2a4  a2=(iv)(x1x0)2{(x1x0)a}2a2 \begin{align*} d^{\, 2} &\overset{(\text{i})}{=} {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{1}^{\prime} \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} {\Big\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) - \displaystyle \frac{\, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \; \bm{a} \, \Big\rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} -2 \, \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \\ & \qquad \qquad \quad + \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{4} \,} \; {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} - \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \tag{\ast \ast} \end{align*}

    • i\text{i}内積の定義より、ベクトル x\bm{x} の長さについて v=vvvp1\lVert \, \bm{v} \, \rVert = \sqrt{\, \bm{v} \cdot \bm{v} \vphantom{\bm{vp}^{1}} \,} が成り立つことから、v2=vvvp1{\lVert \, \bm{v} \, \rVert}^{2} = \bm{v} \cdot \bm{v} \vphantom{\bm{vp}^{1}} となります。

    • ii\text{ii}11で求めた x1\bm{x}_{1}^{\prime} を代入すると、d2d^{\, 2}22 つのベクトル x1x0\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}a\bm{a}(いずれも定数ベクトル)により表せることがわかります。

    • iii\text{iii}定理 1.4(内積の演算法則)より、次が成り立ちます。

      v1v22=v122v1v2+v22vp1 \begin{gather*} {\lVert \, \bm{v}_{1} - \bm{v}_{2} \, \rVert}^{2} = {\lVert \, \bm{v}_{1} \, \rVert}^{2} - 2 \, \bm{v}_{1} \cdot \bm{v}_{2} + {\lVert \, \bm{v}_{2} \, \rVert}^{2} \vphantom{\bm{vp}^{1}} \end{gather*}

    • iv\text{iv})式を整理すると、d2d^{\, 2}22 つのベクトル x1x0\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}a\bm{a} の内積と、それぞれの長さの 22 乗により表せることがわかります。

  • 次に、dd を求めます。

    • 定理 1.5(シュワルツの不等式)より、次が成り立ちます。

      (x1x0)a(x1x0)a \begin{gather*} \lvert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \, \rvert \leqslant \lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert \, \lVert \, \bm{a} \, \rVert \end{gather*}

    • したがって、上記の\ast \ast)式について、次が成り立ちます。

      d2=(x1x0)2{(x1x0)a}2a2(x1x0)2(x1x0)2a2a2=0 \begin{align*} d^{\, 2} &= {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} - \displaystyle \frac{\, \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \tag{\ast \ast} \\ &\geqslant {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} - \displaystyle \frac{\, {\lVert \, (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \rVert}^{2} {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,}{\, {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} \,} \\ &= 0 \end{align*}

    • すなわち、\ast \ast)式の右辺は 00 以上であり、平方根が実数の範囲にあることが確かめられます。

    • また、d0d \geqslant 0 であるので、dd\ast \ast)式の正の平方根であり、次のようになります。

      d=x1x02a2{(x1x0)a}2avp1 \begin{gather*} d = \displaystyle \frac{\, \sqrt{\, {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{0} \, \rVert}^{2} {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} - \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,} \,}{\, \lVert \, \bm{a} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ \end{gather*}

  • 以上から、点と直線の距離に関する公式(1.4.7)式が導かれました。


計算例(空間内の点と直線の距離)

空間に座標系が与えられている場合において、空間内の点と直線の距離を求める計算例を示します。



例題(点と直線の距離)

空間内の点 X1(3,1,3)X_{1} (3, -1, 3) と直線 l:x62=y73=z52l : \displaystyle \frac{\, x-6 \,}{\, 2 \,} = \displaystyle \frac{\, y-7 \,}{\, 3 \,} = \displaystyle \frac{\, z-5 \,}{\, 2 \,} の距離を求めよ。



解答

直線 ll を座標変数を成分とするベクトルの方程式の形にすると、次のようになる。

(xyz)=(675)+t(232) \begin{align*} \begin{pmatrix} \, x \, \\ \, y \, \\ \, z \, \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \, 6 \, \\ \, 7 \, \\ \, 5 \, \end{pmatrix} + t \begin{pmatrix} \, 2 \, \\ \, 3 \, \\ \, 2 \, \end{pmatrix} \end{align*}

したがって、直線 ll の方向ベクトルは a=(2,3,2)\bm{a} =(2, 3, 2) となる。いま、X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足を X1X_{1}^{\prime} とすると、X1X_{1}^{\prime} が直線 ll 上にあることから X1X_{1}^{\prime} の座標は (2t+6,3t+7,2t+5)(2 t + 6, \, 3 t + 7, \, 2 t + 5) と表せる。また、X1X_{1}X1X_{1}^{\prime} をそれぞれ始点と終点とするベクトルは (X1X1)=(2t+3,3t+8,2t+2)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) = (2 t + 3 , \, 3 t + 8 , \, 2 t + 2) となる。このとき、(X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) と直線 ll の方向ベクトルが直交することから、次が成り立つ。

(X1X1)a=02(2t+3)+3(3t+8)+2(2t+2)=017t+34=0t=2 \begin{gather*} & (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) \cdot \bm{a} = 0 \\ \Leftrightarrow & 2 \, (2 t + 3) + 3 \, (3 t + 8) + 2 \, (2 t + 2) = 0 \\ \Leftrightarrow & 17 t + 34 = 0 \\ \Leftrightarrow & t = -2 \\ \end{gather*}

したがって、(X1X1)=(1,2,2)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) = (-1, 2, -2) であり、点 X1X_{1} と直線 ll の距離を dd とすれば d=(X1X1)d = \lVert \, (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) \, \rVert であることから、

d=(1)2+22+(2)2vp2=3 \begin{gather*} d = \sqrt{\, (-1)^{2} + 2^{2} + (-2)^{2} \vphantom{{\lvert \bm{vp} \rvert}^{2}} \,} = 3 \end{gather*}



解答の考え方

X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足を X1X_{1}^{\prime} とすると、点 X1X_{1} と直線 ll の距離は d=(X1X1)d = \lVert \, (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) \, \rVert となります。(11)点 X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足 X1X_{1}^{\prime} の座標を求め、(22)垂線を表すベクトル (X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) の長さを求めることで、点 X1X_{1} と直線 ll の距離を計算します。

前提事項の整理

  • 直線 ll の方程式をベクトル方程式の形に直すと、次のようになります。

    x62=y73=z52  (=t){x=6+2tx=7+3tx=5+2t(xyz)=(675)+t(232) \begin{gather*} & \displaystyle \frac{\, x-6 \,}{\, 2 \,} = \displaystyle \frac{\, y-7 \,}{\, 3 \,} = \displaystyle \frac{\, z-5 \,}{\, 2 \,} \; (\, = t \,) \\ \\ \Leftrightarrow & \left\{ \begin{array} {c} x = 6 + 2 \, t \\ x = 7 + 3 \, t \\ x = 5 + 2 \, t \\ \end{array} \right. \quad \quad \quad \\ \\ \Leftrightarrow & \begin{pmatrix} \, x \, \\ \, y \, \\ \, z \, \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \, 6 \, \\ \, 7 \, \\ \, 5 \, \end{pmatrix} + t \begin{pmatrix} \, 2 \, \\ \, 3 \, \\ \, 2 \, \end{pmatrix} \end{gather*}

  • 直線 ll の方向ベクトルを a\bm{a} とすれば、a=(2,3,2)\bm{a} = (2, 3, 2) となります。

  • また、直線 ll 上の点は媒介変数 tt を用いて (2t+6,3t+7,2t+5)(2 t + 6, \, 3 t + 7, \, 2 t + 5) と表せることがわかります。ここで tt は任意の実数です。

11)垂線の足の位置ベクトルを求める

  • まず、点 X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足 X1X_{1}^{\prime} の座標を求めます。

  • X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線の足を X1X_{1}^{\prime} とすると、X1X_{1}^{\prime} が直線 ll 上にあることから X1X_{1}^{\prime} の座標は (2t+6,3t+7,2t+5)(2 t + 6, \, 3 t + 7, \, 2 t + 5) と表せます。

    • ここで、ttX1X_{1}^{\prime} に対応する具体的な実数であり、tt の値を定めることで X1X_{1}^{\prime} の座標が決定します。
  • X1X_{1}X1X_{1}^{\prime} をそれぞれ始点と終点とするベクトル (X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) について、次の計算により (X1X1)=(2t+3,3t+8,2t+2)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) = (2 t + 3 , \, 3 t + 8 , \, 2 t + 2) となります。

    (X1X1)=(2t+63t+72t+5)(313)=(2t+33t+82t+2) \begin{split} (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) &= \begin{pmatrix} \, 2 t + 6 \, \\ \, 3 t + 7 \, \\ \, 2 t + 5 \, \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} \, 3 \, \\ \, -1 \, \\ \, 3 \, \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} \, 2 t + 3 \, \\ \, 3 t + 8 \, \\ \, 2 t + 2 \, \end{pmatrix} \end{split}

    • (X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,)は、点 X1X_{1} から直線 ll に下ろした垂線を表すベクトルに他なりません。
  • (X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) と直線 ll の方向ベクトル a\bm{a} が直交することから、X1X_{1}^{\prime} を定める tt の値を求めます。

    (X1X1)a=02(2t+3)+3(3t+8)+2(2t+2)=017t+34=0t=2 \begin{gather*} & (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) \cdot \bm{a} = 0 \\ \Leftrightarrow & 2 \, (2 t + 3) + 3 \, (3 t + 8) + 2 \, (2 t + 2) = 0 \\ \Leftrightarrow & 17 t + 34 = 0 \\ \Leftrightarrow & t = -2 \\ \end{gather*}

  • 以上から、X1X_{1}^{\prime} の座標が (2,1,1)(2, 1, 1) と求まりました。

(2)垂線を表すベクトルの長さを求める

  • 次に、垂線を表すベクトル (X1X1)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) の長さを求めることで、点 X1X_{1} と直線 ll の距離を求めます。

  • 上記(11の考察より、垂線を表すベクトルは (X1X1)=(1,2,2)(\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) = (-1, 2, -2) となります。

    (X1X1)=(211)(313)=(122) \begin{split} (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) &= \begin{pmatrix} \, 2 \, \\ \, 1 \, \\ \, 1 \, \end{pmatrix} - \begin{pmatrix} \, 3 \, \\ \, -1 \, \\ \, 3 \, \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} \, -1 \, \\ \, 2 \, \\ \, -2 \, \end{pmatrix} \end{split}

  • X1X_{1} と直線 ll の距離を dd とすれば、d=(X1X1)d = \lVert \, (\, \overrightarrow{X_{1}X_{1}^{\prime}} \,) \, \rVert であることから、次が成り立ちます。

    d=(1)2+22+(2)2vp2=3 \begin{gather*} d = \sqrt{\, (-1)^{2} + 2^{2} + (-2)^{2} \vphantom{{\lvert \bm{vp} \rvert}^{2}} \,} = 3 \end{gather*}

  • 以上から、点 X1X_{1} と直線 ll の距離が求まりました。


まとめ

  • 空間内の直線 ll がベクトル方程式 x=x0+ta\bm{x} = \bm{x}_{0} + t \bm{a} により与えられているとする。このとき、空間内の点 X1X_{1} の位置ベクトルを x1\bm{x}_{1} とすると、点 X1X_{1} と直線 ll の距離 dd は次の式により与えられる。

    d=x1x02a2{(x1x0)a}2avp1 \begin{equation*} d = \displaystyle \frac{\, \sqrt{\, {\lVert \, \bm{x}_{1} - \bm{x}_{0} \, \rVert}^{2} {\lVert \, \bm{a} \, \rVert}^{2} - \big\{ (\bm{x}_{1} - \bm{x}_{0}) \cdot \bm{a} \big\}^{2} \,} \,}{\, \lVert \, \bm{a} \, \rVert \vphantom{\sqrt{\, {\bm{vp}}^{1} \,}} \,} \\ \end{equation*}

  • 空間に直交座標系が与えられている場合、座標変数を用いて点と直線の距離を計算する簡潔な公式はない。

    • この場合、(11)与えられた点から直線に下ろした垂線の足の座標を求め(22)垂線を表すベクトルの長さを求めるアプローチが有効。

参考文献

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[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
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[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
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[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
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[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.


初版:2023-09-02   |   改訂:2024-12-15