群の定義
群とは($\text{1}$)結合法則が成り立ち($\text{2}$)単位元と($\text{3}$)逆元が存在するような $2$ 項演算が定義された空でない集合です。
ここでは、行列式の定義に必要となる、置換の集合(対称群)について考える準備として、群を定義します。群の理論は代数学の範疇ですが、線型代数においても、置換を扱う上で重要な役割を果たします。
群の定義
まず、集合と $2$ 項演算の結合概念として、群を定義します。
定義 3.3(群)
$G$ を空集合でない集合とする。$G$ についての $2$ 項演算($\text{law of composition}$)が定義されていて、次の条件を満たすとき、$G$ を群($\text{group}$)という。
($2$)任意の $a \in G$ に対して、$ae = ea = a$ となる $e \in G$ が存在する。(単位元)
($3$)任意の $a \in G$ に対して、$ab = ba = e$ となる $b \in G$ が存在する。(逆元)
解説
二項演算とは
群を定義するために必要な概念
群を定義するにあたり、まず $2$ 項演算($\text{law}$ $\text{of}$ $\text{composition}$)を導入する必要があります。
対応する英語($\text{law}$ $\text{of}$ $\text{composition}$)からも、これが「$2$ つの要素を合成する規則」であることが直感的に理解できます。 [10], [11] では「$2$ 項演算」が用いられていますが、 [8] では単に「演算」とのみ表記されています。また、 [13], [14] では “$\text{law}$ $\text{of}$ $\text{composition}$” が用いられています。
二項演算の定義( $G \times G$ から $G$ への写像)
群の定義において、$2$ 項演算とは、次のような写像 $\psi$ を指しています。
ここで、$G \times G$ は集合の直積であり、$G \times G = \{\, (a, b) \mid a \in G, \; b \in G \, \}$、すなわち $G$ の元 $a, b$ の組から成る集合です。
$\psi$ が $G \times G$ から $G$ への写像ということは、$\psi$ により、$G$ の $2$ つの元の組 $(a, b)$ にたいして、$G$ の元 $c$ が対応付けられるということを表しています。
二項演算の像(積)
$\psi$ の像 $\psi \, (a, b)$ を通常は積($\text{product}$)と呼ばれ、$ab$ と書きます。
例えば、$0$ を除く実数全体 $\mathbb{R} \backslash \{ 0 \}$ において、通常の乗法(かけ算)を $2$ 項演算 $\psi$ と考えると、次が成り立ちます。
このとき、$2$ 項演算 $\psi$ と通常の乗法(かけ算)は一致しています。$2$ 項演算による $\psi (2, 3)$ は $2$ と $3$ の積表しており、その像は $\mathbb{R} \backslash \{ 0 \}$ の元である $6$ に等しくなります。(ここで、$0$ を除く理由については、 下記の 例 1 で改めて説明します。)
注意しなければならないことは、$2$ 項演算はあくまで写像 $\psi : G \times G \to G$ のことであり、通常の乗法(かけ算)のことではないということです。また、$2$ 項演算の像 $\psi \, (a, b)$ を積と呼びますが、ここでいう積は、単に「かけ算の結果」を意味しません。積とは(通常の乗法も含む)$2$ 項演算の像である、と捉えるのが安全です。
二項演算の像を和と呼ぶ場合(可換群、アーベル群)
特に、任意の $G$ の元について交換法則($\text{commutative law}$)が成り立つとき、すなわち、次が成り立つとき、慣習的に $\psi$ の像 $\psi \, (a, b)$ を和($\text{sum}$)と呼び、$a + b$ と書きます。
このとき、$G$ を可換群、アーベル群などといいます。 下記の 例 2 にみるように、複素数全体 $\mathbb{C}$ の集合、実数全体 $\mathbb{R}$ の集合、有理数全体 $\mathbb{Q}$ の集合、整数全体 $\mathbb{Z}$ の集合は、通常の加法(たし算)により可換群(アーベル群)となります。
しかしながら、群において交換法則は必ずしも成り立たないため、$2$ 項演算の像 $\psi \, (a, b)$ は積と呼ぶことの方が一般的です。繰り返しになりますが、$2$ 項演算は、あくまで $G$ の直積 $G \times G$ から $G$ への写像 であり、通常の加減乗除の考え方を一般化したものであると捉えることが重要です。
群であるための条件
$2$ 項演算の定義を踏まえて、集合 $G$ が群であるための条件についてみていきます。すなわち、$G$ が群であるためには、次の $3$ つの条件を満たす必要があります。
($2$)任意の $a \in G$ に対して、$ae = ea = a$ となる $e \in G$ が存在する。(単位元)
($3$)任意の $a \in G$ に対して、$ab = ba = e$ となる $b \in G$ が存在する。(逆元)
(1)結合法則
まず、条件($\text{1}$)は、積についての結合法則($\text{associative law}$)が成り立つこと示しています。すなわち、群 $G$ においては、任意の元について、演算の結果(積)が、演算の順序によらないことが求められます。
(2)単位元の存在
次に、条件($\text{2}$)は、群 $G$ に単位元が存在することを示してます。すなわち、$G$ において、任意の $a \in G$ に対して $ae = ea = a$ が成り立つ $e \in G$ が存在することが求められます。この $e$ を単位元($\text{unit element}$)とよびます。
(3)逆元の存在
最後に、条件($\text{3}$)は、群 $G$ の任意の元に対して逆元が存在することを示しています。これは、$G$ においては、任意の $a \in G$ に対して $ab = ba = a$ が成り立つ $b \in G$ が存在することが求められます。この $b$ を、$a$ の逆元($\text{inverse element}$)とよび、$a^{-1}$ と表します。
条件を部分的に満たす場合(半群、モノイド)
$2$ 項演算が定義された空でない集合のうち、 上記の条件($\text{1}$)のみを満たすものを「半群($\text{semigroup}$)」といい、($\text{1}$)と($\text{2}$)のみを満たすものを「モノイド($\text{Monoid}$)」といいます。
多くの代数学の教科書( [8], [9], [10], [11], [14] など)では、最も基本的な代数的構造として、群が最初に定義されています。
しかしながら、圏論を意識した教科書( [13] など)では、群より先にモノイドが定義されていることもあります。圏論では、モノイドの方が(群よりも)より基本的な対象と考えられるからです。(モノイドは「単位的半群」と訳されることもあります。単位元のある半群、といった意味合いでしょうか。)
群の概念
集合と二項演算の結合概念
上記に示した通り、群とは、($\text{1}$)結合法則が成り立ち($\text{2}$)単位元と($\text{3}$)逆元が存在するような $2$ 項演算が定義された集合です。
すなわち、群は、集合と $2$ 項演算を合わせた結合概念であるといえます。すこし複雑な成立要件はあるものの、あくまで集合を基にした概念であると考えると、群は途端に親しみやすくなります。
群であることを示す表現
例えば、 下記の 例 1 では、$0$ を除く実数 $\mathbb{R} \backslash \{ 0 \}$ という集合と、通常の乗法(かけ算)という $2$ 項演算を合わせて、群を構成していると捉えることができます。このとき、「$\mathbb{R} \backslash \{ 0 \}$ は通常の乗法により群である」と表現します。
文脈により、群に定義される $2$ 項演算が明らかな場合は、単に「$\mathbb{R} \backslash \{ 0 \}$ は群である」と表現されていることもあります。しかしながら、群が、あくまで、集合と $2$ 項演算の結合概念であることを意識しておくことが重要です。
群の例
次に、具体的な群の例をいくつか示します。いずれも、上記の 群の定義の条件を満たすことを確かめます。
例 1($0$ を除く複素数・実数・有理数全体の集合)
$\mathbb{C} \backslash \{ 0 \}, \; \mathbb{R} \backslash \{ 0 \}, \; \mathbb{Q} \backslash \{ 0 \}$ は、通常の乗法により群である。
解説
群であるための条件を満たすことの確認
$0$ を除く複素数、実数、有理数について、結合法則が成り立つのは明らかといえます。また、それぞれ、単位元は $1$ であり、任意の元 $a$ の逆元は $\displaystyle \frac{\; 1 \;}{\; a \;}$(逆数)に対応しています。
$0$ を除く理由
$0$ の逆数は定義できないため、$0$ は通常の乗法に関して、逆元を持ちません。
したがって、複素数、実数、有理数全体の集合が、通常の乗法により群であるため(すなわち、任意の元について条件($3$)を満たすため)には $0$ を除く必要があるということです。
$0$ を除く整数全体の集合
また、$0$ を除く整数全体の集合 $\mathbb{Z} \backslash \{ 0 \}$ は、通常の乗法により群になるとはいえません。任意の元の逆元が整数の範囲に入らないためです。
例 2(複素数・実数・有理数・整数の集合)
$\mathbb{C}, \; \mathbb{R}, \; \mathbb{Q}, \; \mathbb{Z}$ は、通常の加法により群である。
解説
群であるための条件を満たすことの確認
複素数、実数、有理数、整数について、結合法則が成り立つのは明らかといえます。また、それぞれ、単位元は $0$ であり、任意の元 $a$ の逆元は $- a$ に対応しています。
可換群(アーベル群)であることの確認
また、複素数、実数、有理数、整数について、交換法則が成り立つのは明らかといえます。例えば、任意の $2$ つの複素数について、次が成り立ちます。
これは、実数、有理数、整数についても同様に成り立ちます。したがって、複素数、実数、有理数、整数全体の集合は、通常の加法により可換群(アーベル群)であるといえます。
自然数全体の集合
自然数全体の集合 $\mathbb{N}$ は、通常の加法により群になりません。
自然数を $\mathbb{N} = \{\, 1, 2, \cdots \, \}$ と定義すると単位元を持たず、$\mathbb{N} = \{\, 0, 1, 2, \cdots \, \}$ と定義しても逆元を持たないためです。
まとめ
次の $3$ つの条件を満たす $2$ 項演算が定義された、空でない集合のことを群という。
($1$)任意の $a, b, c \in G$ に対して、$(ab) \, c = a \, (bc)$ が成り立つ。(結合法則)
($2$)任意の $a \in G$ に対して、$ae = ea = a$ となる $e \in G$ が存在する。(単位元)
($3$)任意の $a \in G$ に対して、$ab = ba = e$ となる $b \in G$ が存在する。(逆元)$2$ 項演算とは、$G$ の元の組 $(a, b)$ と元 $c$ を対応付ける写像 $G \times G \to G$ のことを指す。
群は、集合と $2$ 項演算の結合概念であり、「$\mathbb{R} \backslash \{ 0 \}$ は通常の乗法により群である」などと表現する。
参考文献
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.