置換の積

前項で導入した置換について、その積を定義します。置換の積もまた 11 つの置換となります。このことを定義より確かめるとともに、具体的な計算手順について例を用いて確認します。

置換の積を導入することで、置換の集合に対して 22 項演算が定義でき、置換の集合を群(対称群)として捉えることができるようになります。このことついては次項以降に詳しくみます。

置換の積


定義 3.2(置換の積)

σ,τ\sigma, \tauMnM_n 上の 22 つの置換とする。σ\sigmaτ\tau の合成写像を σ\sigmaτ\tau の積(product\text{product})といい、τσ\tau \, \sigma と表す。



要するに、置換の積とは合成写像のことであるといえます。前項でみたように、MnM_n 上の置換とは MnM_n から MnM_n への全単射写像のことでした。したがって、22 つの置換 σ,τ\sigma, \tau に対して合成写像 τσ\tau \circ \sigma が定義でき、この合成写像を 22 つの置換の積と呼ぶということです。置換の積を表す τσ\tau \sigma という表記に関しては、σ\sigmaτ\tau の合成写像を表す τσ\tau \circ \sigma という表記と並び順が同じであるが、合成を示す記号 \circ が省略されている、と考えれば理解しやすいです。


22 つの置換の積もまた置換であることは、定義から明らかといえます。いま、MnM_n 上の置換全体の集合を Sn={σσ:MnMn}S_n = \{ \, \sigma \mid \sigma : M_n \to M_n \, \} として、22 つの置換 σ,τSn\sigma, \tau \in S_n に対して、置換の積 τσ\tau \, \sigmaMnM_n 上の置換であることを確かめます。すなわち、次が成り立つことを確かめます。

σ,τSnτσSn \begin{equation} \tag{3.1.2} \sigma , \tau \in S_n \quad \Rightarrow \quad \tau \, \sigma \in S_n \end{equation}


まず、σ,τ\sigma, \tauMnM_n上の置換(σ,τSn\sigma, \tau \in S_n)であるので、置換の定義より σ,τ\sigma, \tau はともに MnM_n から MnM_n への写像となります。よって、σ\sigmaτ\tau の合成写像 τσ\tau \circ \sigmaMnM_n から MnM_n への写像となります。すなわち、置換の積 τσ\tau \, \sigma は、MnM_n から MnM_n への写像となります。次に、同様に σ,τ\sigma, \tauMnM_n上の置換であることから、置換の定義より σ,τ\sigma, \tau はともに全単射となります。全単射の合成写像は全単射であるから、置換の積 τσ\tau \, \sigma は全単射となります。以上から、置換の積 τσ\tau \, \sigmaMnM_n から MnM_n への写像であり、かつ全単射であるから、τσ\tau \, \sigmaMnM_n 上の置換であり、すなわち τσSn\tau \sigma \in S_n であるといえます。


置換の積の計算

前項で導入した置換の表記法を用いて置換の積を表すとともに、具体的に与えられた置換の積を計算する手順を示します。


表記法

σ,τ\sigma, \tauMnM_n 上の 22 つの置換とすると、置換の積 τσ\tau \, \sigma は次のように表すことができます。

σ=(12nσ(1)σ(2)σ(n)),τ=(12nτ(1)τ(2)τ(n)) \begin{array} {ccc} \sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \end{pmatrix}, & \tau = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \end{pmatrix} \end{array}


τσ=(12nτ(σ(1))τ(σ(2))τ(σ(n))) \begin{equation} \tag{3.1.3} \tau \, \sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(\sigma(1)) & \tau(\sigma(2)) & \cdots & \tau(\sigma(n)) \end{pmatrix} \\ \end{equation}


置換の積とは 22 つの置換の合成に他なりませんので、(3.1.3)式が、前項で導入した置換の表記法と整合するものであることは明らかといえます。また、この式が成り立つことは次のような手順でも確かめることができます。

τσ=(i)(12nτ(1)τ(2)τ(n))(12nσ(1)σ(2)σ(n))=(ii)(σ(1)σ(2)σ(n)τ(σ(1))τ(σ(2))τ(σ(n)))(12nσ(1)σ(2)σ(n))=(iii)(12nτ(σ(1))τ(σ(2))τ(σ(n))) \begin{split} \tau \, \sigma & \overset{(\text{i})}{=} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \end{pmatrix} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \begin{pmatrix} \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \\ \tau(\sigma(1)) & \tau(\sigma(2)) & \cdots & \tau(\sigma(n)) \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \end{pmatrix} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(\sigma(1)) & \tau(\sigma(2)) & \cdots & \tau(\sigma(n)) \end{pmatrix} \\ \end{split}


まず(i\text{i})では、22 つの置換 σ,τ\sigma, \tau をそれぞれ前項で導入した表記法により表しています。置換を並べる順序は積の順序の通りです。次に(ii\text{ii})では、τ\tau について以下の変形を行っています。

τ=(12nτ(1)τ(2)τ(n))=(σ(1)σ(2)σ(n)τ(σ(1))τ(σ(2))τ(σ(n))) \begin{align*} \tau = \begin{pmatrix} 1 & 2 & \cdots & n \\ \tau(1) & \tau(2) & \cdots & \tau(n) \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} \sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n) \\ \tau(\sigma(1)) & \tau(\sigma(2)) & \cdots & \tau(\sigma(n)) \end{pmatrix} \end{align*}


前項で示した通り、置換は、集合MnM_n の要素 1,2,,n1, 2, \cdots, n がそれぞれどの要素に移るかによって決定されるため、その表記において、上下の組み合わせが変わらない限り並べ方を変えてもかまいません。したがって、ここでは τ\tau を表すにあたって、上段を 1,2,,n1, 2, \cdots, n の順から、σ(1),σ(2),,σ(n)\sigma(1), \sigma(2), \cdots, \sigma(n) の順に並び替えています。この並び替えに伴って、下段は τ(σ(1)),τ(σ(2)),,τ(σ(n))\tau(\sigma(1)), \tau(\sigma(2)), \cdots, \tau(\sigma(n)) の順になります。これは、置換 τ\tau により、11τ(1)\tau(1) に移り、22τ(2)\tau(2) に移り \cdotsσ(1)\sigma(1)τ(σ1)\tau(\sigma1) に移り、σ(2)\sigma(2)τ(σ2)\tau(\sigma2) に移り \cdots という対応関係は変わらず、並び方だけが変わったと考えると納得できます。

1τ(1),2τ(2),,σ(1)τ(σ(1)),σ(2)τ(σ(2)), \begin{align*} 1 \to \tau(1), \quad 2 \to \tau(2), \quad \cdots, \quad \sigma(1) \to \tau(\sigma(1)), \quad \sigma(2) \to \tau(\sigma(2)), \quad \cdots \end{align*}


最後に(iii\text{iii})では、第 11 項(並び替えた τ\tau)の上段と、第 22 項(σ\sigma)の下段が一致していますので、これを 11 つの置換として書き直しています。


具体的に与えられた置換の積は、上に示した手順で計算することができます。実際に、次のような σ,τS4\sigma, \tau \in S_4 が与えられたとして、置換の積 τσ\tau \, \sigma の計算手順を例示します。

σ=(12343241),τ=(12342143) \begin{array} {ccc} \sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 3 & 2 & 4 & 1 \end{pmatrix}, & \tau = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 2 & 1 & 4 & 3 \end{pmatrix} \end{array}


τσ=(i)(12342143)(12343241)=(ii)(32414132)(12343241)=(iii)(12344132) \begin{split} \tau \, \sigma &\overset{(\text{i})}{=} \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 2 & 1 & 4 & 3 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 3 & 2 & 4 & 1 \end{pmatrix} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \begin{pmatrix} 3 & 2 & 4 & 1 \\ 4 & 1 & 3 & 2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 3 & 2 & 4 & 1 \end{pmatrix} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 4 & 1 & 3 & 2 \end{pmatrix} \\ \end{split}

まず(i\text{i})では、22 つの置換 σ,τ\sigma, \tau をそれぞれ積の順序に並べています。次に(ii\text{ii})では、τ\tau について以下の変形を行っています。

τ=(12342143)=(32414132) \begin{align*} \tau = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 2 & 1 & 4 & 3 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 3 & 2 & 4 & 1 \\ 4 & 1 & 3 & 2 \end{pmatrix} \end{align*}


ここで、τ\tau による置換を表す上下の文字の組み合わせ(12,  21,  34,  43\, 1 \to 2, \; 2 \to 1, \; 3 \to 4, \; 4 \to 3 \,)が変わっていないことが確かめられます。また、τ\tau の上段の文字が、σ\sigma の下段の文字と同じ順に並ぶように変形を行っています。このようにすることで、最後に(iii\text{iii})で、第 11 項(並び替えた τ\tau)の上段と、第 22 項(σ\sigma)の下段が一致していることから、これを 11 つの置換として書き直すことができます。


まとめ

  • MnM_n 上の 22 つの置換 σ,τ\sigma, \tau の合成写像を σ\sigmaτ\tau の積といい、τσ\tau \, \sigma と表す。
  • MnM_n上の 22 つの置換 σ\sigma, τ\tau の積 τσ\tau \sigma もまた MnM_n上の置換である。

参考文献

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[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
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[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2022-10-25   |   改訂:2024-08-16