線型独立性(1)

線型独立(または線型従属)であるベクトルの基本的な性質に関する諸定理を示します。

ここでは、あるベクトルの組が線型独立(または線型従属)であることと同値な条件に関する定理を示します。

線型独立(または線型従属)なベクトルの性質


定理 4.18(線型独立と同値な条件)

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であるということと、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が一意に表されるということは同値である。



この定理は、あるベクトルの組が線型独立であることと同値な条件を示すものです。すなわち、あるベクトルの組が線型独立であれば線型結合は一意に定まり、その逆もまた成り立ちます。



証明 4.18

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であると仮定する。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が、次のように $2$ 通りに表されるとすると、次が成り立つ。

$$ c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Leftrightarrow \quad (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{k} - c^{\prime}_{k}) \, \bm{v}_{k} = \bm{0} $$

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ は線型独立であるから、この線型関係を満たすのは $c_{1} - c^{\prime}_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{k} - c^{\prime}_{k} = 0$ の場合のみであり、$c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{k} = c^{\prime}_{k}$ となる。したがって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合は一意に表される。逆に、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が一意に表されると仮定すると、次が成り立つ。

$$ c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Rightarrow \quad c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{k} = c^{\prime}_{k} $$

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明な線型関係が存在するから、線型関係 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ を満たす $c_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{k} = 0$ が存在する。ここで、線型結合 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k}$ は一意に表されることから、線型関係 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ を満たすのは $c_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{k} = 0$ の場合のみである。よって、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ は線型独立である。$\quad \square$



証明の骨子 4.18

($\text{i}$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立である」ことと($\text{ii}$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が一意に表される」ことの同値性を示します。線型独立の定義に従って証明します。また、どのようなベクトルの間にも自明な線型関係が存在することを利用します。

  • ($\text{i}$)$\Rightarrow$($\text{ii}$)

    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であると仮定します。

    • 仮に $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が $2$ 通りに表されるとすると次が成り立ちます。これは、方程式において対応する項を移項してまとめるような操作に相当する変形であり、ベクトル空間の公理に則ったものといえます。

      $$ c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Leftrightarrow \quad (c_{1} - c^{\prime}_{1}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (c_{k} - c^{\prime}_{k}) \, \bm{v}_{k} = \bm{0} $$

      • いま、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ は線型独立であるので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明な線型関係のみ存在します(線型独立の定義)。
      • すなわち、上の線型関係を満たすのは $c_{1} - c^{\prime}_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{k} - c^{\prime}_{k} = 0$ の場合のみであり、したがって、$c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{k} = c^{\prime}_{k}$ が成り立ちます。
    • 以上から、次のことが成り立つといえます。これは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が一意に表されるということに他なりません。すなわち($\text{i}$)$\Rightarrow$($\text{ii}$)が示されたことになります。

      $$ c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Rightarrow \quad c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{k} = c^{\prime}_{k} $$

  • ($\text{i}$)$\Leftarrow$($\text{ii}$)

    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が一意に表されると仮定します。すなわち、次のことが成り立つと仮定します。

      $$ c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Rightarrow \quad c_{1} = c^{\prime}_{1}, \, \cdots, \, c_{k} = c^{\prime}_{k} $$

    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明な線型関係のみが存在することを示し、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であることを導きます。

      • どんなベクトルの間にも自明な線型関係が存在するので(線型関係の定義)、当然、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ にも自明な線型関係が存在するといえます。
      • すなわち、線型関係 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ を満たす $c_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{k} = 0$ が存在するといえます。
      • いま($\text{ii}$)の仮定より、線型結合 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k}$ が一意に表されることから、線型関係 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ を満たすのは $c_{1} = 0, \, \cdots, \, c_{k} = 0$ の場合のみであることがわかります。
      • 仮に、自明でない線型関係 $c^{\prime}_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ が存在するとしても、線型結合の一意性より $c^{\prime}_{1} = c_{1} = 0, \, \cdots, \, c^{\prime}_{k} = c_{k} = 0$ となり、矛盾します。
    • 以上から、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明な線型関係のみ存在する、つまり $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であることが導かれました。以上で($\text{ii}$)$\Rightarrow$($\text{i}$)が示されたことになります。



定理 4.19(線型従属と同値な条件)

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型従属であるということと、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ のうちの $1$ つのベクトルが他のベクトルの線型結合として表されるということは同値である。



この定理は、あるベクトルの組が線型従属であることと同値な条件を示すものです。すなわち、あるベクトルの組が線型従属であればそのうちの $1$ つが他の線型結合として表され、その逆もまた成り立ちます。



証明 4.19

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型従属であるとすると、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ を成り立たせる少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{k}$ が存在する。例えば $c_{1} \neq 0$ であるとすると、

$$ \bm{v}_{1} = ( - \frac{c_{2}}{c_{1}} ) \, \bm{v}_{2} + \cdots + ( - \frac{c_{k}}{c_{1}} ) \, \bm{v}_{k} $$

となり、$\bm{v}_{1}$ が他のベクトルの線型結合として表せる。$c_{2}, \cdots, c_{k}$ の場合も同様である。逆に、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ のうちの $1$ つのベクトルが他のベクトルの線型結合として表されるとする。たとえば $\bm{v}_{1}$ が他のベクトルの線型結合として表せるとすると、
$$ \bm{v}_{1} = c^{\prime}_{2} \, \bm{v}_{2} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Leftrightarrow \quad \bm{v}_{1} + (-c^{\prime}_{2}) \, \bm{v}_{2} + \cdots + (-c^{\prime}_{k}) \, \bm{v}_{k} = \bm{0} $$

となり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明でない線型関係が存在する。よって $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ は線型従属である。$\bm{v}_{2}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の場合も同様である。$\quad \square$



証明の骨子 4.19

($\text{i}$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型従属である」ことと($\text{ii}$)「$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ のうちの $1$ つのベクトルが他のベクトルの線型結合として表される」ことの同値性を示します。線型従属の定義に沿って証明します。

  • ($\text{i}$)$\Rightarrow$($\text{ii}$)

    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型従属であるとすると、線型従属の定義より、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ を成り立たせる少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{k}$ が存在するということになります。

    • 例えば $c_{1} \neq 0$ であるとすると、$\bm{v}_{1}$ は他のベクトルの線型結合として次のように表せます。これは、$c_{2}, \cdots, c_{k}$ の場合も同様に成り立ちます。

      $$ \begin{gather*} c_{1} \, \bm{v}_{1} + c_{2} \, \bm{v}_{2} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0} \\ \Rightarrow \quad \bm{v}_{1} = ( - \frac{c_{2}}{c_{1}} ) \, \bm{v}_{2} + \cdots + ( - \frac{c_{k}}{c_{1}} ) \, \bm{v}_{k} \end{gather*} $$

    • 以上から($\text{i}$)$\Rightarrow$($\text{ii}$)が示されました。

  • ($\text{i}$)$\Leftarrow$($\text{ii}$)

    • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ のうちの $1$ つのベクトルが他のベクトルの線型結合として表されると仮定します。例えば $\bm{v}_{1}$ が他のベクトルの線型結合として表せるとすると、次が成り立ちます。

      $$ \begin{gather*} \bm{v}_{1} = c^{\prime}_{2} \, \bm{v}_{2} + \cdots + c^{\prime}_{k} \, \bm{v}_{k} \\ \Leftrightarrow \quad \bm{v}_{1} + (-c^{\prime}_{2}) \, \bm{v}_{2} + \cdots + (-c^{\prime}_{k}) \, \bm{v}_{k} = \bm{0} \end{gather*} $$

    • これは、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ に自明でない線型関係が存在することを示していますので、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ は線型従属であるといえます。すなわち、上の式を $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の間の線型関係 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ としてみれば、$c_{1} = 1, \, c_{2} = -c^{\prime}_{2}, \cdots, \, c_{k} = -c^{\prime}_{k}$ であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明でない線型関係が存在することになります。これは、$\bm{v}_{2}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の場合も同様に成り立ちます。

    • 以上から($\text{i}$)$\Leftarrow$($\text{i}$)が示されました。


まとめ

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であるということと、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合が一意に表されるということは同値である。
  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型従属であるということと、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ のうちの $1$ つのベクトルが他のベクトルの線型結合として表されるということは同値である。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
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[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
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[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-02-15   |   改訂:2024-08-25