線型独立性(3)

線型独立(または線型従属)であるベクトルの基本的な性質に関する諸定理を示します。

ここでは、線型独立なベクトルの組に $1$ つのベクトルを加えて線型従属になるならば、あらたに加えられたベクトルはもとのベクトルの組の線型結合として一意に表すことができるということを示します。

線型独立(または線型従属)なベクトルの性質


定理 4.21(線型独立・線型従属なベクトルの組 $2$)

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型従属であれば、$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として一意に表せる。



すなわち、線型独立なベクトルの組に $1$ つのベクトルを加えて線型従属になるならば、あらたに加えられたベクトルはもとのベクトルの組の線型結合として一意に表すことができるということです。この定理は、後にベクトル空間の基底の性質について考察する際に重要な役割を果たします。



証明

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であるとする。$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型従属であれば、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} + c \, \bm{v} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{k}, c$ が存在する。ここで $c = 0$ とすると、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ となり $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であることに矛盾する。よって $c \neq 0$ である。したがって、$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として次のように表せる。

$$ \bm{v} = (- \frac{c_{1}}{c}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (- \frac{c_{k}}{c}) \, \bm{v}_{k} $$

また、定理 4.18より $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であればその線型結合は一意に表せるから、この表し方は一意的である。$\quad \square$



証明の骨子

線型独立および線型従属の定義と、基本的な性質(定理 4.18(線型独立と同値な条件))を用いて示します。

  • 定理の仮定を整理します。

    • ($\text{i}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ は線型独立です。
      • 線型独立の定義より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ には自明でない線型関係が存在しないことになります。
      • すなわち、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} + = \bm{0}$ が成り立つのは $c_{1} = \cdots = c_{k} = 0$ の場合のみということになります。
    • ($\text{ii}$)$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ は線型従属です。
      • 線型従属の定義より、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ には自明でない線型関係が存在することになります。
      • すなわち、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} + c \, \bm{v} = \bm{0}$ を満たす少なくとも $1$ つは $0$ でない $c_{1}, \cdots, c_{k}, c$ が存在することになります。
  • $\bm{v}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として表せることを導きます。

    • 仮定($\text{ii}$)より、自明でない線型関係 $c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} + c \, \bm{v} = \bm{0}$ が存在することがわかりました。

    • ここで $c = 0$ とすると、$c_{1} \, \bm{v}_{1} + \cdots + c_{k} \, \bm{v}_{k} = \bm{0}$ となり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ にも自明でない線型関係が存在する(すなわち $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型従属である)ことになり、仮定($\text{i}$)に矛盾します。よって $c \neq 0$ となります。

    • $c \neq 0$ であるので、$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として次のように表せることがわかります。

      $$ \bm{v} = (- \frac{c_{1}}{c}) \, \bm{v}_{1} + \cdots + (- \frac{c_{k}}{c}) \, \bm{v}_{k} $$

    • 以上から、$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として表せることがわかりました。

  • 線型結合としての表し方が一意的であることを示します。

    • 定理 4.18(線型独立と同値な条件)より、線型独立なベクトルの線型結合は一意的であるから、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であればその線型結合は一意的に表せるといえます。
    • したがって、$\bm{v}$ の $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合としての表し方は一意的であるといえます。


系 4.22(線型独立・線型従属なベクトルの組 $3$)

$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であり、$\bm{v}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として表せないならば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型独立である。



この系は定理 4.21とまったく同等のものです。系 4.22の主張は定理 4.21の主張の言換えにすぎませんが、このような形で言換えた方が便利な場合があります。

定理 4.21系 4.22の同値性は、次のようにして確かめられます。

  • まず、定理 4.21を次のように分解すると、定理の主張は $p \land q \Rightarrow r$ のように表せます。

    $p$:$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立である。
    $q$:$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型従属である。
    $r$:$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として一意的に表せる。

  • 同様の考え方により、系 4.22の主張は $p \land {}^{\lnot} r \Rightarrow {}^{\lnot} q$ と表せます。

    $\; \, p$:$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{r}$ は線型独立である。
    ${}^{\lnot} r$:$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として表せない。
    ${}^{\lnot} q$:$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型独立である。

  • よって $p \land q \Rightarrow r$ と $p \land {}^{\lnot} r \Rightarrow {}^{\lnot} q$ が同値であることを確かめればよいわけですが、次の通りこれは成り立ちます。

    $$ \begin{split} p \land q \Rightarrow r \; &\overset{(\text{1})}{\iff} \; {}^{\lnot} (p \land q) \lor r \\ &\overset{(\text{2})}{\iff} \; {}^{\lnot} p \lor {}^{\lnot} q \lor r \\ &\overset{(\text{3})}{\iff} \; {}^{\lnot} p \lor r \lor {}^{\lnot} q \\ &\overset{(\text{4})}{\iff} \; {}^{\lnot} (p \land {}^{\lnot} r) \lor {}^{\lnot} q \\ &\overset{(\text{5})}{\iff} \; p \land {}^{\lnot} r \Rightarrow {}^{\lnot} q \\ \end{split} $$

    • ($\text{1}$)と($\text{5}$)では $P \Rightarrow Q \Leftrightarrow {}^{\lnot} P \lor Q$ という同値変形を用いています。
    • ($\text{2}$)と($\text{4}$)ではド・モルガンの法則 ${}^{\lnot} (P \land Q) \Leftrightarrow {}^{\lnot} P \lor {}^{\lnot} Q$ を用いています。
    • ($\text{3}$)は、交換律 $P \lor Q \Leftrightarrow Q \lor P$ が成り立つことによります。

まとめ

  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であり、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型従属であれば、$\bm{v}$ は $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として一意に表せる。
  • $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ が線型独立であり、$\bm{v}$ が $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}$ の線型結合として表せないならば、$\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{k}, \bm{v}$ が線型独立である。

参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-02-18   |   改訂:2024-08-25