線型変換の行列表示
これまで、一般の線型写像 $f : V \to W$ の行列表示に関して考えてきました。ここからは、線型変換 $f : V \to V$ の行列表示について考えます。
線型変換は線型写像の特別な場合であるので、基本的には、これまでの線型写像の行列表示に関する考察がそのまま成り立ちます。線型変換の行列表示は、固有値と固有ベクトルや行列の標準化など、実際の応用において非常に重要です。
線型変換の行列表示
定理 4.54(線型変換の行列表示)
$V$ を $n$ 次元のベクトル空間とし、$V$ の基底を $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ とする。このとき、線型変換 $f : V \to V$ に対して、次の関係式により表される $n$ 次正方行列 $A$ が存在する。
また、逆に $n$ 次正方行列 $A$ が与えられたとき、この関係式により表される線型変換 $f : V \to V$ が存在する。
解説
線型変換と行列の対応
定理 4.54(線型変換の行列表示)は、$n$ 次元ベクトル空間 $V$ における線型変換と $1$ 対 $1$ に対応する $n$ 次正方行列が存在することを示しています。
すなわち、線型変換 $f : V \to V$ は正方行列 $A$ により表現され、逆に、正方行列 $A$ に対して線型写像 $f : V \to V$ が定まります。ここで、線型変換 $f$ を表現する正方行列 $A$ を、基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ に関する $f$ の行列表示($\text{matrix representation}$)などと呼びます。
線形写像の行列表示の特殊な場合
線型変換はベクトル空間 $V$ から $V$ 自身への線形写像であり、線形写像の特殊な場合ということができます。
したがって、 定理 4.54(線型変換の行列表示)は、 定理 4.50(線型写像の行列表示)の特殊な場合といえます。
すなわち、 定理 4.54は、 定理 4.50の系ともいえる定理であり、 定理 4.50において $V = W$ として $V$ の基底を $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ に固定すれば、これが成り立つことは明らかといえます。
線型変換の行列表示と基底
線型写像の行列表示の場合と同様、線型変換 $f : V \to V$ を表現する正方行列 $A$ は、$V$ の基底のとり方に依存します。
すなわち、同じ線型変換 $f$ の行列表示であっても、$V$ の基底のとり方が異なれば、異なる行列になるということです。
相似な行列
基底のとり方により線形変換の行列表示は異なりますが、同じ線型変換を表現する行列がまったく無関係な行列になるわけではありません。
同じ線形変換を表現する異なる行列は、正則行列により互いに変換可能です。このような行列は、互いに相似($\text{similar}$)な行列などと呼ばれます。
基底の変更により線型変換 $f$ の行列表示がどのように変わるかについては、 定理 4.56(相似な行列)にて改めて整理します。
線型変換の行列表示の重要な性質
線形写像と線型変換の行列表示
上記で考察した通り、線型変換は線形写像の特殊な場合であるといえます。そのため、 線型変換の行列表示の基本的な性質は、 線型写像の行列表示と同じになります。
線型変換の行列表示は、 線型写像の行列表示の基本的な性質を継承しているともいえます。
しかしながら、次の $2$ 点は、 線型写像の行列表示において必ず成り立つわけではなく、 線型変換の行列表示において特に重要となる性質です。
表現行列が正方行列であること
線型変換の行列表示は、必ず正方行列となります。これは、線型変換 $f : V \to V$ の定義域と値域のベクトル空間が同じであることから、明らかといえます。
一般に、線形写像 $f : V \to W$ の表現行列の型は、線形写像の定義域 $V$ と値域 $W$ の次元により定まります。$V, W$ の次元をそれぞれ $m, m$ とすると、$f$ の表現行列は $(m, n)$ 型の行列となります。
線型変換の場合、定義域と値域が等しいため、その次元も等しくなります。よって、$V$ の次元を $n$ とすれば、$f$ の表現行列は $(n, n)$ 型の行列、すなわち $n$ 次の正方行列となります。
線形写像の場合も、定義域と値域のベクトル空間の次元が等しければ、表現行列は正方行列となります。しかしながら、これは必ずしも成り立つとはいえません。一方で、線型変換の場合、その表現行列は必ず正方行列になるといえます。
定義域と値域の基底が同じであること
線型変換の行列表示では、定義域と値域の基底が同じものに固定されています。これは、 定理 4.54(線型変換の行列表示)において特に注意すべき点です。
線型写像の行列表示においては、線型写像 $f : V \to W$ の定義域 $V$ の基底と、値域 $W$ の基底は(当然ながら)別々に固定されます( 定理 4.50(線型写像の行列表示))。
同様に、 線型変換の行列表示においても、線型変換 $f : V \to V$ の定義域としての $V$ の基底と、値域としての $V$ の基底として、それぞれ異なる基底を選んでも問題ないはずです(実際、論理的にはまったく問題ないです)。
しかしながら、通常、 線型変換の行列表示において、定義域と値域の基底を別々に選ぶことに実効的な意味は何もありません。そのため、 定理 4.54では、定義域と値域の基底が同じであることは、前提条件として扱われていると理解できます。
証明
定理 4.50(線型写像の行列表示)より明らか。$\quad \square$
可換図式による表現
線型変換の行列表示の可換図式
線型変換の表現行列を可換図式で表すと、次のようになります。(可換図式については、 可換図式による表現を参照ください。)

可換図式の構成と意味
上記の可換図式は、 線型写像の行列表示の可換図式をもとに、特に線型変換の場合に変更した構成となっています。
ここで、$\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ として、線型変換 $f$ について $\bm{v}^{\prime} = f(\bm{v})$ が成り立つとします。すなわち、線型変換により $\bm{v}$ が $\bm{v}^{\prime}$ に移されるとします。
また、$\bm{v}, \bm{v}^{\prime} \in V$ を基底 $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ の線型結合として表したときの座標ベクトルを $\bm{x}, \bm{x}^{\prime}$ とします。
$V$ から $K^{n}$ への同型写像を $\psi$ とすると、$\bm{v}, \bm{v}^{\prime}$ と $\bm{x}, \bm{x}^{\prime}$ との間に $\bm{x} = \psi(\bm{v}), \, \bm{x}^{\prime} = \psi(\bm{v}^{\prime})$ が成り立ちます。
可換図式の経路と線型変換の対応
このとき、線型変換 $f$ の表現行列 $A$ は、次のように表せます。
したがって、これを用いて $A \bm{x}$ を求めると、
となり、線型変換 $f$ による関係式 $\bm{v}^{\prime} = f(\bm{v})$ が、表現行列による関係式 $\bm{x}^{\prime} = A \, \bm{x}$ に対応することが確かめられます。
また、このことは、 線型写像行列表示の可換図式と同様に、可換図式において異なる経路の写像の合成が等しくなることを意味しています。
まとめ
- $V$ を $n$ 次元のベクトル空間、$V$ の基底を $\bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n}$ とする。
線型変換 $f : V \to V$ に対して、次の関係式により表される $n$ 次正方行列 $A$ が存在する。
$$ \begin{align*} (\, f(\bm{v}_{1}), \cdots, f(\bm{v}_{n}) \,) = (\, \bm{v}_{1}, \cdots, \bm{v}_{n} \,) \, A \end{align*} $$また、逆に $n$ 次正方行列 $A$ が与えられたとき、この関係式により表される線型変換 $f : V \to V$ が存在する。
線型変換の行列表示では、定義域と値域で同じ基底がとられていることを前提とする。
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