斉次連立一次方程式の解(1)

前項では連立一次方程式が解を持つための条件を示しました。次に(解を持つ場合)解がどのような形であるかについて考えていきます。

ここでは、まず連立一次方程式が斉次の場合について考え、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元が係数行列 $A$ により定まることを示します。

斉次連立一次方程式の解空間


定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)

$A$ を $(m, n)$ 型行列とする。斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合は $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ の部分空間であり、その次元は $n - \text{rank} \, A$ に等しい。



解説

前項において、一般の連立一次方程式について、解が存在するための条件を示しましたが、ここでは、斉次連立一次方程式の場合について考えます。

自明な解($\bm{x} = \bm{0}$)

基底と次元の準備の項などで既に述べたように、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ は必ず解を持ちます。$A \bm{x} = \bm{0}$ において $\bm{x} = \bm{0}$ とすれば、係数行列 $A$ によらず $A \bm{x} = A \, \bm{0} =\bm{0}$ が常に成り立ちます。すなわち、どのような斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ に対しても自明な解($\bm{x} = \bm{0}$)が存在するということです。

解空間

部分空間の例に示した通り、解空間とは $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合であり $\{\, \bm{x} \mid A \bm{x} = \bm{0} \,\}$ と表すことができます。

定理 5.2の主張は、この解空間が部分空間(すなわちベクトル空間)であり、かつ、その次元が $n - \text{rank} \, A$ に等しいということです。解空間の次元が $n - \text{rank} \, A$ であるということは、解空間が $n - \text{rank} \, A$ 個の基底を持ち、解空間に含まれる任意の元がこの基底の線型結合として表せるということを意味しています。

基本解と一般解

上記のように考えると、定理 5.2は「斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ は $n - \text{rank} \, A$ 個の線型独立な解をもち、$A \bm{x} = \bm{0}$ の任意の解がこの線型独立な解の線型結合として表せる」のように言い換えることができます。

ここで、このような線型独立な解を 基本解($\text{fundamental solution}$) といい、基本解の線型結合として表される解を 一般解($\text{general solution}$) ということがあります。なお、基本解と一般解はあくまで一般的な用語であり、微分方程式などの他の方程式系でも用いられます。

解空間の次元(例)

解空間の次元が $0$ である場合、解空間は $\{\, \bm{0} \,\}$ であり $A \bm{x} = \bm{0}$ は自明な解しか持ちません。解空間の次元が $1$ である場合、基本解(解空間の基底)は $1$ つであり、これを $\bm{x}_{1}$ とすれば、任意の解は $\bm{x}_{1}$ の線型結合、すなわち $c_{1} \bm{x}_{1}$ として表すことができます。同様に、解空間の次元が $2$ である場合、基本解(解空間の基底)は $2$ つであり、これを $\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2}$ とすれば、任意の解は $c_{1} \bm{x}_{1} + c_{2} \bm{x}_{2}$ として表すことができます。より高次の場合も同様です。

定理の意義

定理 5.2は斉次連立一次方程式に関するものですが、次々項(定理 5.5(連立一次方程式の解の集合))に示すように、一般の連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{b}$ の解と、同じ係数行列を持つ斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解との間にはある対応関係があります。

したがって、定理 5.2において得られた考察は、一般の連立一次方程式の解について考える際も非常に重要な役割を果たします。この点については、改めて定理 5.6(連立一次方程式の解の形)において整理します。



証明

$A$ により定まる線型写像を $f_{A} : K^{n} \to K^{m}$ とすると、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は $\text{Ker} f_{A}$ と表すことができる。定理 4.8より $\text{Ker} f_{A}$ は $K^{n}$ の部分空間である。また、定理 4.37より次が成り立つ。

$$ \begin{gather*} \dim K^{n} = \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) + \dim (\, \text{Im} f_{A} \,) \\ \Leftrightarrow \; \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A \end{gather*} $$

したがって、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元は $n - \text{rank} \, A$ に等しい。$\quad \square$



証明の骨子

$A$ により定まる線型写像を $f_{A}$ とすると、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は $\text{Ker} f_{A}$ と表せます。$f_{A}$ に対して、定理 4.37(線型写像の基本定理)を用いることで $\dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A$ を示します。

  • $A$ により定まる線型写像を $f_{A} : K^{n} \to K^{m}$ とします。

    • $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間とは $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合であり、これを $W$ と置くと、次が成り立ちます。すなわち、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間は $\text{Ker} f_{A}$ に等しいということです。

      $$ \begin{split} W &\overset{(1)}{=} \{\, \bm{x} \in K^{n} \mid A \bm{x} = \bm{0} \,\} \\ &\overset{(2)}{=} \{\, \bm{x} \in K^{n} \mid f_{A} (\bm{x}) = \bm{0} \,\} \\ &\overset{(2)}{=} \text{Ker} f_{A} \\ \end{split} $$

      • ($1$)解空間の定義によります。
      • ($2$)$f_{A}$ の置き方により、$A \bm{x} = \bm{0}$ と $f_{A} (\bm{x}) = \bm{0}$ は $1$ 対 $1$ に対応します。
      • ($2$)線型写像の核の定義によります。
  • $\text{Ker} f_{A}$ が $K^{n}$ の部分空間であることを示します。

    • このことは、定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間)に既に示されています。
    • 定理 4.8(斉次連立一次方程式の解空間)を用いずとも、次のように、部分空間の定義により簡単に確かめられます。
      • 解空間の定義より、$\bm{x} \in \text{Ker} f_{A} \Rightarrow \bm{x} \in K^{n}$ ですので、$\text{Ker} f_{A} \subset K^{n}$、すなわち $\text{Ker} f_{A}$ が $K^{n}$ の部分集合であることは明らかです。
      • また、$f_{A}$ が線型写像であることから、$\text{Ker} f_{A}$ が和とスカラー倍の演算について閉じていることは明らかです。部分空間の定義により、次のように確かめられます。
        • 和について、$\bm{x}_{1}, \bm{x}_{2} \in \text{Ker} f_{A}$ とすれば、$f_{A} (\bm{x}_{1}) = \bm{0}, \, f_{A} (\bm{x}_{2}) = \bm{0}$ であることから次が成り立ちます。

          $$ \begin{split} f_{A} (\, \bm{x}_{1} + \bm{x}_{2} \,) &= f_{A} (\bm{x}_{1}) + f_{A} (\bm{x}_{2}) \\ &= \bm{0} + \bm{0} \\ &= \bm{0} \\ \end{split} $$

        • スカラー倍について、$\bm{x}_{1} \in \text{Ker} f_{A}, \, c_{1} \in K$ とすれば、$f_{A} (\bm{x}_{1}) = \bm{0}$ であることから次が成り立ちます。

          $$ \begin{split} f_{A} (\, c_{1} \bm{x}_{1} \,) &= c_{1} f_{A} (\bm{x}_{1}) \\ &= c_{1} \, \bm{0} \\ &= \bm{0} \\ \end{split} $$

  • $\text{Ker} f_{A}$ の次元が $n - \text{rank} \, A$ に等しいことを示します。

    • $f_{A}$ に対して定理 4.37(線型写像の基本定理)を適用します。

    • $\dim K^{n} = n$ であること、階数の定義より $\text{rank} \, A = \dim \text{Im} f_{A}$ であることから次が成り立ちます。

      $$ \begin{gather*} \dim K^{n} = \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) + \dim (\, \text{Im} f_{A} \,) \\ \Leftrightarrow \; n = \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) + \text{rank} \, A \\ \Leftrightarrow \; \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A \end{gather*} $$

    • 以上から、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元が $n - \text{rank} \, A$ に等しいことが示されました。


まとめ

  • 斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解全体の集合は $n$ 次元数ベクトル空間 $K^{n}$ の部分空間であり、その次元は $n - \text{rank} \, A$ に等しい。
  • $(m, n)$ 型行列 $A$ により定まる線型写像を $f_{A} : K^{n} \to K^{m}$ とすると、次が成り立つ。
    $$ \begin{equation*} \dim (\, \text{Ker} f_{A} \,) = n - \text{rank} \, A \end{equation*} $$


参考文献

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[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
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初版:2023-06-17   |   改訂:2024-10-03