一般の連立一次方程式の解法(1)
一般の連立一次方程式の解の有無を判定する方法を示します。
斉次連立一次方程式の場合と異なり、一般の連立一次方程式は必ずしも解を持つとは限りません。与えられた連立一次方程式を解くにあたっては、まず解の有無を判定する必要があります。
連立一次方程式の解の有無の判定方法#
斉次連立一次方程式との違い#
前項でみた通り、斉次連立一次方程式 Ax=0 は少なくとも 1 つの解 x=0 を持ち、これを自明な解といいます。
一方で、一般の連立一次方程式 Ax=b は必ずしも解を持つとは限りません。このため、一般の連立一次方程式 Ax=b を解く際は、まず、解を持つか否かを判定する必要があります。
解を持つための条件#
一般の連立一次方程式 Ax=b が解を持つための条件は既に明らかになっています。
すなわち、Ax=b が解を持つためには、係数行列 A の階数と係数拡大行列 (A∣b) の階数が等しいことが必要にして十分です(定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件))。
rankA=rank(A∣b) 行列の基本変形による解の有無判定#
定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件)により、与えられた連立一次方程式の係数行列と係数拡大行列の階数を調べることで、連立一次方程式が解を持つか否かを判定することができます。
定理 5.1においても考察したように、定義にしたがって行列の階数を求めるのは手間がかかりますが、我々は既に、実用的な階数の計算方法を得ています。階段行列への変形による方法です。
したがって、与えられた連立一次方程式が解を持つか否かを判定する方法も、以下の手順のように、階段行列への変形による判定方法がもっとも実用的であるといえます。
A を (m,n) 型行列とすると、次の手順(1)∼(2)により連立一次方程式 Ax=b の解の有無を判定することができます。
(1)階段行列への変形#
- 拡大係数行列 (A∣b) を階段行列に変形します。
- 変形の結果得られる行列は、次のような形になります。
- ここで、r は係数行列 A の階数に一致します。
(2)解の有無判定#
- br+1 の値により解の有無を判定します。
(2-1)解を持つ場合#
- br+1=0 であれば、連立一次方程式 Ax=b は解を持ちます。
- br+1=0 のとき、rank(A∣b)=r であり、係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しくなりますので Ax=b は解を持ちます(定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件))。
(2-2)解を持たない場合#
- br+1=0 であれば、連立一次方程式 Ax=b は解を持ちません。
- br+1=0 のとき、rank(A∣b)=r+1 であり、rankA=rank(A∣b) となります。したがって、Ax=b は解を持ちません(定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件))。
以上のようにして、具体的に与えられた連立一次方程式 Ax=b が解を持つか否かを判定できます。拡大係数行列 (A∣b) は係数行列 A を含みますので、それぞれの階数を別々に求める必要はありません。
つまり、拡大係数行列 (A∣b) を階段行列に変形したとき、最右列が主成分を持つか否かにより解の有無を判定することができます。
解の有無判定の例#
階段行列への変形による解の有無判定方法の利用例として、次の 2 つの例題を解いてみます。
例題1(解の有無の判定)#
次の連立一次方程式が解を持つか否かを判定せよ。
⎩⎨⎧x1+x1+x1+323x2+x2+x2+x2+3234x3−x3+x3+x3+2322x4=x4=x4=x4=−−4211
解答(例題1)#
与えられた連立一次方程式を Ax=b のように表すと、拡大係数行列 (A∣b) は、行基本変形により次のような階段行列に変形することができる。
(A∣b)=011131233234−2322−421−1⟶(i)1000131223123−2−1−12−4−1−3⟶(ii)1000110021003−1112−1−1−1⟶(iii)1000110021003−1102−1−10 係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数はともに 3 に等しいので、定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件)より、Ax=b は解を持つ。
解答の考え方(例題1)#
行列の基本変形による解の有無判定方法の手順にしたがって、(1)拡大係数行列 (A∣b) を階段行列に変形し(2)係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しいことを確認します。
(1)階段行列への変形#
階段行列への変形は次のような手順で行います。
(A∣b)=011131233234−2322−421−1⟶(i)1000131223123−2−1−12−4−1−3⟶(ii)1000110021003−1112−1−1−1⟶(iii)1000110021003−1102−1−10 (2)解の有無判定#
係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数を比較して、解の有無を判定します。
変形の結果得られる階段行列は次のようになります。
1000110021003−1102−1−10 - 左側のブロックは係数行列 A を変形して得られる階段行列に等しく、A の階数が 3 であることがわかります(定理 5.11(階段行列))。
- 右下のブロックをみると、(4,5) 成分が 0 に等しいことがわかります。すなわち、拡大係数行列 (A∣b) も 3 であることがわかります。
係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しいので、Ax=b が解を持つための条件(定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件))を満たすことが確かめられました。
例題2(解を持つための条件)#
次の連立一次方程式が解を持つための条件を示せ。
⎩⎨⎧2x+x−x+y+y+y+3z=z=z=1ab
解答(例題2)#
与えられた連立一次方程式を Ax=b のように表すと、拡大係数行列 (A∣b) は、行基本変形により次のような階段行列に変形することができる。
(A∣b)=2011−113111ab⟶(i)1001−1−1111ba1−2b⟶(ii)1001−10110ba1−a−2b Ax=b が解を持つための必要十分条件は係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しいことであるから、1−a−2b=0、すなわち、a+2b=1 が成り立つとき Ax=b は解を持つ。
解答の考え方(例題2)#
文字を含む連立一次方程式において、解を持つための条件を明らかにする問題です。
例題1と同様に、行列の基本変形による解の有無判定方法の手順にしたがって、(1)拡大係数行列 (A∣b) を階段行列に変形し(2)係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しくなるための条件を求めます。
(1)階段行列への変形#
階段行列への変形は次のような手順で行います。
(A∣b)=2011−113111ab⟶(i)1001−1−1111ba1−2b⟶(ii)1001−10110ba1−a−2b (2)解の有無判定#
係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しくなるような条件を求めます。
変形の結果得られる階段行列は次のようになります。
1001−10110ba1−a−2b 左側のブロックは係数行列 A を変形して得られる階段行列に等しく、A の階数が 2 であることがわかります(定理 5.11(階段行列))。
拡大係数行列 (A∣b) の階数が係数行列 A の階数に等しくなるためには、右下のブロックにある (3,4) 成分( 1−a−2b )が 0 である必要があります(定理 5.1(連立一次方程式が解を持つための条件))。
したがって、Ax=b が解を持つための条件は a+2b=1 であると求まります。
⇔1−a−2b=0a+2b=1
まとめ#
一般の連立一次方程式(Ax=b)は、必ずしも解を持つとは限らない。
一般の連立一次方程式は、係数拡大行列を階段行列に変形することで解の有無を判定することができる。
判定方法の手順は次の通り。
(
1)係数拡大行列
(A∣b) を階段行列に変形する。
(
2)最右列が主成分を持つか否かにより、解の有無を判定する。
係数行列 A の階数と拡大係数行列 (A∣b) の階数が等しいとき、もとの連立一次方程式は解を持つ。
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] 三宅敏恒. 線形代数学 初歩からジョルダン標準形へ. 培風館. 2008.
[6] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[7] T. Miyake. Linear Algebra From the Beginnings to the Jordan Normal. Springer. 2022.
[8] 雪江明彦. 代数学 1 群論入門. 日本評論社. 2010.
[9] 雪江明彦. 代数学 2 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[10] 桂利行. 代数学 I 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[11] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[12] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[13] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2002.
[14] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[15] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.
初版:2023-07-26 | 改訂:2024-10-31