斉次連立一次方程式の解法

斉次連立一次方程式の解法を示します。

連立一次方程式が斉次($A \bm{x} = \bm{0}$ の形)である場合、係数行列を行標準形に変形することで解を得ることができます。

斉次連立一次方程式の解法

概要

斉次連立一次方程式とは

斉次連立一次方程式とは、$A \bm{x} = \bm{0}$ のように表すことができる連立一次方程式です。

一般の連立一次方程式の解法との違い

斉次連立方程式は、一般の連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{b}$ において特に $\bm{b} = \bm{0}$ である場合ともいえます。したがって、当然ながら(次項に示す)一般の連立一次方程式の解法を用いて解くこともできます。

しかしながら、斉次連立一次方程式は自明な解 $\bm{x} = \bm{0}$ を持つことがわかっていることなどから、一般の連立一次方程式の解法よりも少なく、簡単な手順で解を得ることができます。

このような理由から、一般の連立一次方程式の解法とは別に、斉次連立一次方程式の解法を本項にて整理します。もちろん、いずれの解法も根底にある考え方は同じです。

クラメルの公式による解法との違い

我々は、一般の連立一次方程式の解法として、クラメルの公式を既に得ています。当然ながら、クラメルの公式は斉次連立一次方程式にも適用できます。

しかしながら、クラメルの公式は行列式を用いた解法であり、特に式の数($m$)と変数の数($n$)が等しい場合にのみ適用できる解法です。また、変数の数に応じて計算しなければならない行列式の数が増えていきます( $(n + 1)$ 個の行列式を計算する必要がある)。

このような理由から、クラメルの公式はあまり実用的でない場合がほとんどです。

行列の基本変形による解法

以下に整理する解法は行列の基本変形による解法であり、本節のはじめ(基本的な考え方)に示した掃き出し法の考え方に則っています。

解を得るために必要な手続きが明確であり、計算量も(比較的)少ないため、連立一次方程式の解法として実用的といえます。また、この解法はコンピュータによる計算にも適してます。

手順

$A$ を $(m, n)$ 型行列とします。斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解は、次の手順($1$)$\sim$($2$)により得られます。

(1)行標準形への変形

  • 行基本変形と列の入れ替えの操作により、係数行列 $A$ を行標準形に変形します(定理 5.14(行標準形))。
    • 変形の結果得られる行列 $A^{\prime}$ は、次のような行列となります。
    • ここで、対角線上に並ぶ $1$ の数($r$)はもとの係数行列 $A$ の階数に一致します。
$$ A^{\prime} = \left( \begin{array} {c|c} \begin{matrix} 1 & & \\ & \ddots & \\ & & 1 \end{matrix} & \begin{matrix} a_{1 \, r+1} & \cdots & a_{1n} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{r \, r+1} & \cdots & a_{r n} \end{matrix} \\ \hline \begin{matrix} & & \\ & \Large{O} & \\ & & \end{matrix} & \begin{matrix} & & \\ & \Large{O} & \\ & & \end{matrix} \end{array} \right) $$

(2)解の整理

  • 行標準形への変形により、簡単になった斉次連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ を解きます。
  • $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ は次のような連立一次方程式となります。
$$ \begin{gather*} \left\{ \begin{array} {ll} x_{1} & + \; a_{1 \, r+1} x_{r+1} + \cdots + a_{1 n} x_{n} = 0 \\ \quad \; x_{2} & + \; a_{2 \, r+1} x_{r+1} + \cdots + a_{2 n} x_{n} = 0 \\ \quad \; \quad \; \ddots & \; \vdots \quad \quad \quad \quad \quad \, \vdots \\ \quad \; \quad \; \quad \; \quad x_{r} & + \; a_{r \, r+1} x_{r+1} + \cdots + a_{r n} x_{n} = 0 \\ \end{array} \right. \tag{5.4.1} \\ \\ \iff \;\left\{ \; \begin{split} x_{1} &= - (\, a_{1 \, r+1} x_{r+1} + \cdots + a_{1 n} x_{n} \,) \\ x_{2} &= - (\, a_{2 \, r+1} x_{r+1} + \cdots + a_{2 n} x_{n} \,) \\ & \; \; \vdots \\ x_{r} &= - (\, a_{r \, r+1} x_{r+1} + \cdots + a_{r n} x_{n} \,) \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$
  • ここで、$d_{r+1}, \cdots, d_{n} \in K$ を任意のスカラーとして、$(n - r)$ 個の変数 $x_{r+1}, \cdots, x_{n}$ について $x_{r+1} = d_{r+1}, \cdots, x_{n} = d_{n}$ とすると、$A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ の解は次のように表すことができます。
$$ \left\{ \; \begin{split} x_{1} &= - (\, a_{1 \, r+1} d_{r+1} + \cdots + a_{1 n} d_{n} \,) \\ x_{2} &= - (\, a_{2 \, r+1} d_{r+1} + \cdots + a_{2 n} d_{n} \,) \\ & \; \; \vdots \\ x_{r} &= - (\, a_{r \, r+1} d_{r+1} + \cdots + a_{r n} d_{n} \,) \\ x_{r+1} &= d_{r+1} \\ & \; \; \vdots \\ x_{n} &= d_{n} \\ \end{split} \right. \tag{5.4.2} $$
  • 基本変形の可逆性から、これは $A \bm{x} = \bm{0}$ の解に他なりません。

以上から、斉次連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ の解を求めることができました。解法の要所は係数行列 $A$ を行標準形 $A^{\prime}$ に変形するところであり、基本変形によって得られた $A^{\prime}$ の形により解が定まります。

考察

基本解と解空間の次元

($5.4.2$)式より、斉次連立一次方程式の解は、次のように $(n - r)$ 個の $n$ 項列ベクトルの線型結合として表すことができます。

$$ \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{r} \\ x_{r+1} \\ x_{r+2} \\ \vdots \\ x_{n} \end{pmatrix} = d_{r+1} \begin{pmatrix} -a_{1 \, r+1} \\ -a_{2 \, r+1} \\ \vdots \\ -a_{r \, r+1} \\ 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} + d_{r+2} \begin{pmatrix} -a_{1 \, r+2} \\ -a_{2 \, r+2} \\ \vdots \\ -a_{r \, r+2} \\ 0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} + \cdots + d_{n} \begin{pmatrix} -a_{1 n} \\ -a_{2 \, n} \\ \vdots \\ -a_{r n} \\ 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1 \end{pmatrix} $$

それぞれの $n$ 項列ベクトルを $\bm{x}_{r+1}, \cdots, \bm{x}_{n}$ とすると、$\bm{x}_{r+1}, \cdots, \bm{x}_{n}$ は $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の基底(すなわち基本解)であることがわかります。

  • $\bm{x}_{r+1}, \cdots, \bm{x}_{n}$ は明らかに線型独立です。
  • ($5.4.2$)式より、任意の $A \bm{x} = \bm{0}$ の解は $\bm{x}_{r+1}, \cdots, \bm{x}_{n}$ の線型結合として表せます。
  • したがって、$\bm{x}_{r+1}, \cdots, \bm{x}_{n}$ は $A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の基底(すなわち基本解)であるための条件を満たしています。

また、同じ考察により、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解空間の次元は $n - r$ であることがわかります。

  • 解空間の基底が $(n - r)$ 個のベクトルから成るということは、斉次連立一次方程式の解空間の次元が $n - r$ であるということに他なりません。

当然ながら、これらの考察は定理 5.2(斉次連立一次方程式の解空間の次元)としてまとめた内容と整合します。

自明な解のみを持つ条件

係数行列 $A$ の階数と列の数が等しい場合(すなわち $n = r$ である場合)、$A$ を変形して得られる行標準形 $A^{\prime \prime}$ は次のような形なります。

$$ A^{\prime \prime} = \left( \begin{array} {c} \begin{matrix} 1 & & \\ & \ddots & \\ & & 1 \end{matrix} \\ \hline \begin{matrix} & & \\ & \Large{O} & \\ & & \end{matrix} \end{array} \right) $$

このとき、$A^{\prime \prime} \bm{x}^{\prime \prime} = \bm{0}$ は次の連立一次方程式と同じになり(明らかに)自明な解しか持たないことがわかります。

$$ \begin{gather*} \left\{ \begin{array} {ll} x_{1} & = 0 \\ \quad \; x_{2} & = 0 \\ \quad \; \quad \; \ddots & \; \vdots \\ \quad \; \quad \; \quad \; \quad x_{r} & = 0 \\ \end{array} \right. \tag{5.4.1$^{\prime}$} \end{gather*} $$

この考察もまた、系 5.3(斉次連立一次方程式が自明な解のみを持つ条件)と整合するものです。

解法の注意点

基本変形による解法の妥当性

行列の基本変形による解法において、もとの連立一次方程式 $A \bm{x} = \bm{0}$ と、変形後の $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ が同じ解を持つということは極めて重要な点です。

連立一次方程式の変形が可逆的であり $2$ つの連立一次方程式が同じ解を持つということが、基本変形によるこの解法に妥当性を与えているからです。

基本変形に対応する操作

行列の基本変形のすべての操作が可逆的であることは定理 5.7(基本変形の可逆性)により担保されます。

一方で、連立一次方程式の基本変形に関して、可逆的であることが証明されているのは行基本変形に対応する操作についてのみです(定理 5.16(基本変形の可逆性))。つまり、列基本変形に対応する連立一次方程式の変形に関しては、必ずしも可逆的であるとはいえません。

上記の解法では、行標準形を得るために列の入れ替えの操作を行いますが、これは問題ないのでしょうか?係数行列における列の入れ替えの操作は、連立一次方程式に対するどのような操作に対応しているのでしょうか?

列の入れ替えに対応する操作

結論からいえば、係数行列における列の入れ替えは、対応する連立一次方程式における変数の和の順番の入れ替えに相当し、行っても問題ありません。

例えば、係数行列において、次のように第 $i$ 列と第 $j$ 列を入れ替えることを考えます。

$$ \begin{gather*} & \left( \begin{array} {ccccc} \cdots & \fbox{$\begin{matrix} a_{1i} \\ a_{2i} \\ \vdots \\ a_{mi} \end{matrix}$} & \cdots & \fbox{$\begin{matrix} a_{1j} \\ a_{2j} \\ \vdots \\ a_{mj} \end{matrix}$} & \cdots \end{array} \right) \\ \\ & \longrightarrow \left( \begin{array} {ccccc} \cdots & \fbox{$\begin{matrix} a_{1j} \\ a_{2j} \\ \vdots \\ a_{mj} \end{matrix}$} & \cdots & \fbox{$\begin{matrix} a_{1i} \\ a_{2i} \\ \vdots \\ a_{mi} \end{matrix}$} & \cdots \end{array} \right) \end{gather*} $$

これは、対応する連立一次方程式において第 $i$ 項と第 $j$ 項を入れ替えることに相当します。

$$ \begin{gather*} & \left\{ \begin{array} {ccccc} \begin{matrix} \cdots + \\ \cdots + \\ \phantom{\vdots} \\ \cdots + \end{matrix} & \fbox{$\begin{matrix} a_{1i} x_{1} \\ a_{2i} x_{i} \\ \vdots \\ a_{mi} x_{i} \end{matrix}$} & \begin{matrix} + \cdots + \\ + \cdots + \\ \phantom{\vdots} \\ + \cdots + \end{matrix} & \fbox{$\begin{matrix} a_{1j} x_{j} \\ a_{2j} x_{j} \\ \vdots \\ a_{mj} x_{j} \end{matrix}$} & \begin{matrix} + \cdots = 0 \\ + \cdots = 0 \\ \phantom{\vdots} \\ + \cdots = 0 \end{matrix} \end{array} \right. \tag{$\ast$} \\ \\ & \iff \left\{ \begin{array} {ccccc} \begin{matrix} \cdots + \\ \cdots + \\ \phantom{\vdots} \\ \cdots + \end{matrix} & \fbox{$\begin{matrix} a_{1j} x_{j} \\ a_{2j} x_{j} \\ \vdots \\ a_{mj} x_{j} \end{matrix}$} & \begin{matrix} + \cdots + \\ + \cdots + \\ \phantom{\vdots} \\ + \cdots + \end{matrix} & \fbox{$\begin{matrix} a_{1i} x_{1} \\ a_{2i} x_{i} \\ \vdots \\ a_{mi} x_{i} \end{matrix}$} & \begin{matrix} + \cdots = 0 \\ + \cdots = 0 \\ \phantom{\vdots} \\ + \cdots = 0 \end{matrix} \end{array} \tag{$\ast^{\prime}$} \right. \end{gather*} $$

それぞれの方程式において、各項の和の順序は任意です。したがって($\ast$)と($\ast^{\prime}$)はまったく同じ連立一次方程式といえます。

つまり、上記の解法の手順おいて(行基本変形に加えて)列の入れ替えを行っても問題なく、$A \bm{x} = \bm{0}$ と $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ は同じ解を持つ連立一次方程式であるといえます。

解の変数の順序

ただし、列の入れ替え操作を行った場合、注意すべき点があります。それは、得られた解における変数の順序です。

上記の($\ast$)($\ast^{\prime}$)をそれぞれ $A \bm{x} = \bm{0}$ と $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ と表したとき、係数行列 $A$ から $A^{\prime}$ への変形に伴って(解にあたる)変数ベクトル $\bm{x}$ がどのように変化するか考えてみましょう。

注意深くみれば、もとの($\ast$)の解に対応する $\bm{x}$ に対して、変形後の($\ast^{\prime}$)の解に対応する $\bm{x}^{\prime}$ では第 $i$ 項と第 $j$ 項が入れ替わっていることがわかります。

$$ \begin{array} {ccc} \bm{x} = \begin{pmatrix} \, \vdots \, \\ \, x_{i} \, \\ \, \vdots \, \\ \, x_{j} \, \\ \, \vdots \, \end{pmatrix}, & \bm{x}^{\prime} = \begin{pmatrix} \, \vdots \, \\ \, x_{j} \, \\ \, \vdots \, \\ \, x_{i} \, \\ \, \vdots \, \end{pmatrix} & \end{array} $$

すなわち、係数行列を行標準形に変形する際に列の入れ替えを行った場合、得られた解において、対応する変数の順序も(列の順序に合わせて)入れ替わっていなければなりません。

基本変形による解法を用いて連立一次方程式を解く際は、この点を忘れないよう充分注意する必要があります。


解法の例

行列の基本変形による解法の例として、次の $2$ つの斉次連立一次方程式を行列の基本変形を用いて解いてみます。


例題1(行基本変形のみの場合)

次の斉次連立一次方程式を解け。

$$ \begin{align*} \left\{ \; \begin{alignat*} {4} & & & x - {} & & y - {} & & z = 0 \\ & -{} & & x & & \phantom{y} - {} & & z = 0 \\ & & & x + {} & 2 & y + {} & 5 & z = 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{align*} $$


解答(例題1)

与えられた連立一次方程式を $A \bm{x} = \bm{b}$ のように表すと、係数行列 $A$ は、行基本変形により次のような行標準形に変形することができる。

$$ \begin{split} & A = \left( \begin{array} {ccc} 1 & -1 & -1 \\ -1 & 0 & -1 \\ 1 & 2 & 5 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{i})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccc} 1 & -1 & -1 \\ 0 & -1 & -2 \\ 0 & 3 & 6 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{ii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccc} 1 & -1 & -1 \\ 0 & 1 & 2 \\ 0 & 3 & 6 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{iii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {cc|c} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 2 \\ \hline 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \\ \end{split} $$

変形により得られた行標準形を係数行列とする斉次連立一次方程式は次の通り。行基本変形は可逆であるから、これは $A \bm{x} = \bm{b}$ と同じ解をもつ。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \begin{alignat*} {4} & & & x & & \phantom{y} + {} & & z = {} 0 \\ & & & \phantom{x +} & & y + {} & 2 & z = {} 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{gather*} $$

したがって、$d$ を任意のスカラーとすると、$A \bm{x} = \bm{0}$ の解は次のとおり。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \; \begin{split} x &= - d \\ y &= -2 d \\ z &= d \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$

これをベクトルとして表せば次のようになる。

$$ \begin{array} {ccc} \bm{x} = d \begin{pmatrix} \, -1 \, \\ \, -2 \, \\ \, 1 \, \end{pmatrix} & & (\, d \in K \,) \end{array} $$



解答の考え方(例題1)

基本変形による解法の手順にしたがって、($1$)係数行列 $A$ を行標準形 $A^{\prime}$ に変形し($2$)簡単になった斉次連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ を解きます。

(1)行標準形への変形

行標準形への変形は次のような手順で行います。

$$ \begin{split} & A = \left( \begin{array} {ccc} 1 & -1 & -1 \\ -1 & 0 & -1 \\ 1 & 2 & 5 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{i})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccc} 1 & -1 & -1 \\ 0 & -1 & -2 \\ 0 & 3 & 6 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{ii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccc} 1 & -1 & -1 \\ 0 & 1 & 2 \\ 0 & 3 & 6 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{iii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {cc|c} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 2 \\ \hline 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \\ \end{split} $$

変形の結果得られる行標準形 $A^{\prime}$ は次のようになります。

$$ A^{\prime} = \left( \begin{array} {cc|c} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 2 \\ \hline 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) $$

行標準形への変形が行基本変形のみにより完了しましたので、変数の順序の入れ替えはありません。したがって、変形により得られた連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x} = \bm{0}$ は次の通りであり、これは $A \bm{x} = \bm{0}$ と同じ解を持ちます(定理 5.16(基本変形の可逆性))。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \begin{alignat*} {4} & & & x & & \phantom{y} + {} & & z = {} 0 \\ & & & \phantom{x +} & & y + {} & 2 & z = {} 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{gather*} $$

(2)解の整理

変形により得られた連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x} = \bm{0}$ を解いて解を得ます。

$A^{\prime} \bm{x} = \bm{0}$ は更に次のように変形できます。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \begin{alignat*} {4} & & & x & & \phantom{y} + {} & & z = {} 0 \\ & & & \phantom{x +} & & y + {} & 2 & z = {} 0 \\ \end{alignat*} \right. \\ \iff \left\{ \; \begin{split} x &= - z \\ y &= -2 z \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$

ここで、$d$ を任意定数として $z = d$ $\; (\, d \in K \,)$ とすることで解が得られます。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \; \begin{split} x &= - d \\ y &= -2 d \\ z &= d \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$



例題2(列の入れ替えを含む場合)

次の斉次連立一次方程式を解け。

$$ \begin{align*} \left\{ \; \begin{alignat*} {6} & & & x_{1} - {} & 2 & x_{2} + {} & 1 & x_{3} + {} & 2 & x_{4} + {} & 3 & x_{5} = 0 \\ & & & x_{1} - {} & 2 & x_{2} & & \phantom{x_{3}} + {} & & x_{4} + {} & 2 & x_{5} = 0 \\ & - {} & & x_{1} + {} & 2 & x_{2} + {} & 1 & x_{3} & & \phantom{x_{4}} - {} & & x_{5} = 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{align*} $$



解答(例題2)

与えられた連立一次方程式を $A \bm{x} = \bm{b}$ のように表すと、係数行列 $A$ は、行基本変形と列の入れ替えにより次のような行標準形に変形することができる。

$$ \begin{split} & A = \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 1 & 2 & 3 \\ 1 & -2 & 0 & 1 & 2 \\ -1 & 2 & 1 & 0 & -1 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{i})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 1 & 2 & 3 \\ 0 & 0 & -1 & -1 & -1 \\ 0 & 0 & 2 & 2 & 2 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{ii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 1 & 2 & 3 \\ 0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 2 & 2 & 2 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{iii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{iv})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {cc|ccc} 1 & 0 & -2 & 1 & 2 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ \hline 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \\ \end{split} $$

($\text{iv}$)で第 $2$ 列と第 $3$ 列を入れ替えたので、変形により得られた斉次連立一次方程式は次のようになる。また、上記の変形操作は可逆であるから、これは $A \bm{x} = \bm{b}$ と同じ解をもつ。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \begin{alignat*} {6} & & & x_{1} & & \phantom{x_{2}} - {} & 2 & x_{2} + {} & & x_{4} + {} & 2 & x_{5} = {} 0 \\ & & & \phantom{x_{1} + } & & x_{3} & & \phantom{x_{3}} + {} & & x_{4} + {} & & x_{5} = {} 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{gather*} $$

したがって、$d_{1}, d_{2}, d_{3}$ を任意のスカラーとすると $A \bm{x} = \bm{0}$ の解は次のとおり。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \; \begin{split} x_{1} &= 2 d_{1} - d_{2} - 2 d_{3} \\ x_{2} &= d_{1} \\ x_{3} &= - d_{2} - d_{3} \\ x_{4} &= d_{2} \\ x_{5} &= d_{3} \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$

また、これをベクトルの線型結合として表せば次のようになる。

$$ \bm{x} = d_{1} \begin{pmatrix} \, 2 \, \\ \, 1 \, \\ \, 0 \, \\ \, 0 \, \\ \, 0 \, \end{pmatrix} + d_{2} \begin{pmatrix} \, -1 \, \\ \, 0 \, \\ \, -1 \, \\ \, 1 \, \\ \, 0 \, \end{pmatrix} + d_{3} \begin{pmatrix} \, -2 \, \\ \, 0 \, \\ \, -1 \, \\ \, 0 \, \\ \, 1 \, \end{pmatrix} $$



解答の考え方(例題2)

基本変形による解法の手順にしたがって、($1$)係数行列 $A$ を行標準形 $A^{\prime}$ に変形し($2$)簡単になった斉次連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ を解きます。

(1)行標準形への変形

行標準形への変形は次のような手順で行います。

$$ \begin{split} & A = \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 1 & 2 & 3 \\ 1 & -2 & 0 & 1 & 2 \\ -1 & 2 & 1 & 0 & -1 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{i})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 1 & 2 & 3 \\ 0 & 0 & -1 & -1 & -1 \\ 0 & 0 & 2 & 2 & 2 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{ii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 1 & 2 & 3 \\ 0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 2 & 2 & 2 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{iii})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {ccccc} 1 & -2 & 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 1 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \\ &\overset{(\text{iv})}{\longrightarrow} \; \left( \begin{array} {cc|ccc} 1 & 0 & -2 & 1 & 2 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ \hline 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) \\ \end{split} $$

変形の結果得られる行標準形 $A^{\prime}$ は次のようになります。

$$ A^{\prime} = \left( \begin{array} {cc|ccc} 1 & 0 & -2 & 1 & 2 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ \hline 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right) $$

変形により得られた連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ は次の通りであり、これは $A \bm{x} = \bm{0}$ と同じ解を持ちます(定理 5.16(基本変形の可逆性))。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \begin{alignat*} {6} & & & x_{1} & & \phantom{x_{2}} - {} & 2 & x_{2} + {} & & x_{4} + {} & 2 & x_{5} = {} 0 \\ & & & \phantom{x_{1} + } & & x_{3} & & \phantom{x_{3}} + {} & & x_{4} + {} & & x_{5} = {} 0 \\ \end{alignat*} \right. \end{gather*} $$

例題1と異なり、例題2では、行基本変形に加えて列の入れ替えの操作により行標準形への変形が完了します。すなわち($\text{iv}$)の変形において第 $2$ 列と第 $3$ 列を入れ替えているため、これに伴って変数の順序も入れ替わっている点に注意が必要です(解法の注意点)。

(2)解の整理

変形により得られた連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ を解いて解を得ます。

$A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ は更に次のように変形できます。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \begin{alignat*} {6} & & & x_{1} & & \phantom{x_{2}} - {} & 2 & x_{2} + {} & & x_{4} + {} & 2 & x_{5} = {} 0 \\ & & & \phantom{x_{1} + } & & x_{3} & & \phantom{x_{3}} + {} & & x_{4} + {} & & x_{5} = {} 0 \\ \end{alignat*} \right. \\ \iff \left\{ \; \begin{split} x_{1} &= 2 x_{2} - x_{4} - 2 x_{5} \\ x_{3} &= - x_{4} - x_{5} \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$

ここで、$d_{1}, \, d_{2}, \, d_{3}$ を任意定数として、$x_{2} = d_{1}, \, x_{4} = d_{2}, \, x_{5} = d_{3}$ $\; (\, d_{1}, d_{2}, d_{3} \in K \,)$ とすることで解が得られます。

$$ \begin{gather*} \left\{ \; \; \begin{split} x_{1} &= 2 d_{1} - d_{2} - 2 d_{3} \\ x_{2} &= d_{1} \\ x_{3} &= - d_{2} - d_{3} \\ x_{4} &= d_{2} \\ x_{5} &= d_{3} \\ \end{split} \right. \end{gather*} $$


まとめ

  • 連立一次方程式が斉次($A \bm{x} = \bm{0}$ の形)である場合、係数行列を行標準形に変形することで解を得ることができる。

  • 解法の手順は次の通り。

    ($1$)係数行列 $A$ を行標準形 $A^{\prime}$ に変形する。
    ($2$)簡単になった斉次連立一次方程式 $A^{\prime} \bm{x}^{\prime} = \bm{0}$ を解いて、解を整理する。

  • 手順($1$)行標準形への変形において列の入れ替えの操作を行った場合、連立方程式の対応する変数の順序を入れ替える必要がある。


参考文献

[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
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[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 $1$ 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 $2$ 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 $\text{I}$ 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.

初版:2023-07-24   |   改訂:2024-10-31