シュミットの正規直交化法
シュミット(Schmidt)の正規直交化法により、線型独立なベクトルの組から正規直交系を作る手順を示します。
また、具体的に与えられた計量ベクトル空間における、シュミットの正規直交化法の適用例を示します。
シュミットの正規直交化法#
まず、シュミット(Schmidt)の正規直交化法の手順について整理します。
正規直交化の手順#
V を計量ベクトル空間とすると、線型独立なベクトルの組 v1,⋯,vr∈V に対して、次の手順を施すことで、正規直交系 u1,⋯,ur が得られる。
(
1)
v1,⋯,vr から
1 つのベクトル
vi を選ぶ。
(
2)
vi に対して、(
i)直交化および(
ii)正規化の操作を行い、
ui を得る。
(
3)この操作を
1∼r まで繰り返し、
u1,⋯,ur を得る。
ベクトルの直交化と正規化#
手順(2)では、手順(1)で選んだベクトル vi に対して、次の操作を行います。
(i)直交化(orthogonalize)
(ii)正規化(normalize)
(i)ベクトルの直交化#
ベクトルの直交化とは、対象のベクトル vi から、u1,⋯,ui−1 と直交するようなベクトル vi′ を作る操作です。
この操作により、(i−1) 個のベクトルからなる正規直交系 u1,⋯,ui−1 に vi′ を加えた、i 個のベクトルからなる直交系(u1,⋯,ui−1,vi′)が得られます。
(ii)ベクトルの正規化#
ベクトルの正規化とは、対象のベクトルのノルムが 1 となるようにする操作です。
いま、vi′ を正規化したベクトルを ui とすると、この操作により、i 個のベクトルからなる正規直交系 u1,⋯,ui が得られます。
正規直交化されたベクトル#
もとのベクトル vi を(i)直交化(orthogonalize)した vi′ と(ii)正規化(normalize)した ui は、それぞれ次のようになります。
v1′v2′v3′vr′=v1,=v2−(v2⋅u1)u1,=v3−(v3⋅u1)u1−(v3⋅u2)u2,⋮=vr−i∑r−1(vr⋅ui)ui,u1u2u3ur=∥v1′∥v1′,=∥v2′∥v2′,=∥v3′∥v3′,⋮=∥vr′∥vr′,
シュミットの正規直交化法の根拠#
シュミットの正規直交化法は、定理 7.11(正規直交化)および定理 7.12(正規直交基底の構築)により根拠づけられています。
すなわち、定理 7.11(正規直交化)より、線型独立な v1,⋯,vr に対して、順番に(i)直交化(orthogonalize)と(ii)正規化(normalize)の操作を繰り返すことで、正規直交系 u1,⋯,ur が得られるといえます。
また、定理 7.12(正規直交基底の構築)より、特に、計量ベクトル空間の基底に対してシュミットの正規直交化法を適用することで、任意の計量ベクトル空間に正規直交基底が存在するといえます。
シュミットの正規直交化法(例)#
次に、シュミットの正規直交化法の適用例を示します。
例題(シュミットの正規直交化法)#
V を R 上の計量ベクトル空間とする。次の v1,v2,v3∈V を正規直交化せよ。
{v1,v2,v3}=⎩⎨⎧111,101,120⎭⎬⎫
まず、v1′=v1 とすると、∥v1′∥=12+12+12=3 であるから、
u1=∥v1′∥v1′=31111 次に、v2′=v2−(v2⋅u1)u1 とすると、v2⋅u1=32 であるから、
v2′=v2−(v2⋅u1)u1=101−3231111=311−21 また、∥v2′∥=36 であるから、
u2=∥v2′∥v2′=63311−21=611−21 最後に、v3′=v3−(v3⋅u1)u1−(v3⋅u2)u2 とすると、v3⋅u1=31⋅3=3 、v3⋅u2=−63 であるから、
v3′=120−331111+63611−21=121−111+211−21=2110−1 また、∥v3′∥=22 であるから、
u3=∥v3′∥v3′=222110−1=2110−1 以上から、次のような正規直交系 u1,u2,u3 が得られる。
{u1,u2,u3}=⎩⎨⎧31111,611−21,2110−1⎭⎬⎫
解答の考え方#
上記の正規直交化の手順にしたがって、v1,v2,v3 に対して、順番に(1)直交化(2)正規化の操作を行うことで、正規直交系 u1,⋯,ur が得られます。
ここでは、v1,v2,v3 の順に正規直交化の操作を行いましたが、操作の対象とするベクトルを選ぶ順序は任意です。例えば、v3,v2,v1 のような順に正規直交化の操作を行っても正規直交系が得られます。ただし、操作対象のベクトルの順序により、最終的に得られる正規直交系は異なる場合があります。
すなわち、与えられたベクトルに対して、シュミットの正規直交化法により得られる正規直交系は、必ずしも一意に定まらないということです。
まとめ#
V を計量ベクトル空間とすると、線型独立なベクトルの組 v1,⋯,vr∈V に対して、次の手順を施すことで、正規直交系 u1,⋯,ur が得られる。
(
1)
v1,⋯,vr から
1 つのベクトル
vi を選ぶ。
(
2)
vi に対して、(
i)直交化および(
ii)正規化の操作を行い、
ui を得る。
(
3)この操作を
1∼r まで繰り返し、
u1,⋯,ur を得る。
- 直交化とは、対象のベクトル vi から、u1,⋯,ui−1 と直交するようなベクトル vi′ を作る操作。
- 正規化とは、対象のベクトルのノルムが 1 となるようにする操作。
- 与えられたベクトルに対して、シュミットの正規直交化法により得られる正規直交系は、必ずしも一意に定まらない。
参考文献#
[1] 齋藤正彦. 線型代数入門. 東京大学出版会. 1966.
[2] 永田雅宣 他. 理系のための線型代数の基礎. 紀伊國屋書店. 1986.
[3] 川久保勝夫. 線形代数学 [新装版]. 日本評論社. 2010.
[4] 松坂和夫. 線型代数入門 [新装版]. 岩波書店. 2018.
[5] S. Lang. Linear Algebra Third Edition. Springer. 1987.
[6] 雪江明彦. 代数学 1 群論入門. 日本評論社. 2010.
[7] 雪江明彦. 代数学 2 環と体とガロア理論. 日本評論社. 2010.
[8] 桂利行. 代数学 I 群と環. 東京大学出版会. 2004.
[9] 松坂和夫. 代数系入門. 岩波書店. 1976.
[10] 高木貞治. 代数学講義 [改訂新版]. 共立出版. 1965.
[11] S. Lang. Algebra Revised Third Edition. Springer. 2005.
[12] M. Artin. Algebra Second Edition. Pearson Education Limited. 2014.
[13] 青本和彦 他. 数学入門辞典. 岩波書店. 2005.
初版:2023-11-17 | 改訂:2025-03-12