計量を保つ線型写像(1)
内積の値を保存する線形写像を、計量を保つ線形写像といいます。また、ノルムの値を保存する線形写像を、長さを保つ線形写像といいます。
計量を保つ線型写像と長さを保つ線型写像を定義し、線型写像が計量を保つことと長さを保つことが同値であることを示します。
計量を保つ線型写像の定義
まず、計量を保つ線型写像と長さを保つ線型写像の定義を示します。
定義 7.7(計量を保つ線型写像)
$V, W$ を計量ベクトル空間、$f : V \to W$ を線形写像とする。任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について次が成り立つとき、$f$ は計量を保つという。
また、任意の $\bm{x} \in V$ について次が成り立つとき、$f$ は長さを保つという。
解説
計量を保つ線形写像とは
計量を保つ線型写像は内積の値を保存する
内積の値を保存する線形写像を、計量を保つ線形写像といいます。
(7.4.1)式において、左辺 $f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y})$ は $W$ の内積を表しており、右辺 $\bm{x} \cdot \bm{y}$ は $V$ の内積を表しています。
すなわち、線型写像 $f : V \to W$ が計量を保つということは、任意の $2$ つのベクトル $\bm{x}, \bm{y} \in V$ の内積と、それぞれの $f$ による像 $f(\bm{x}), f(\bm{y}) \in W$ の内積が等しくなることを意味しています。
長さを保つ線型写像はノルムの値を保存する
同様に、ノルムの値を保存する線型写像を、長さを保つ線形写像といいます。
(7.4.2)式において、左辺 $\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert$ は $W$ のベクトルのノルムを表しており、右辺 $\lVert \, \bm{x} \, \rVert$ は $V$ のベクトルのノルムを表しています。
つまり、線型写像 $f : V \to W$ が長さを保つということは、任意のベクトル $\bm{x} \in V$ のノルムと、$\bm{x}$ の $f$ による像 $f(\bm{x}) \in W$ のノルムが等しくなることを意味しています。
線型写像の定義との違い
計量を保つ線形写像の定義は、 線型写像の定義と形式的に異なる部分がある点に注意が必要です。
つまり、線型写像が計量を保つ(内積の値を保存する)ことと、線型演算(和やスカラー倍の演算)を保存することは、違った仕方で定義されています。
線形写像の定義(和やスカラー倍の演算を保存すること)
ある写像 $f : V \to W$ が線形写像であるとき、$f$ はベクトルの和とスカラー倍の演算を保存します。すなわち、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V, \; c \in K$ について、次が成り立ちます( 線型写像の定義)。
ここで、$f$ が和の演算を保存することは、$V$ の元の和の像 $f(\bm{x} + \bm{y})$ とそれぞれの像の和 $f(\bm{x}) + f(\bm{y})$ が等しいことを意味しています。同様に、$f$ がスカラー倍の演算を保存することは、$V$ の元のスカラー倍の像 $f(c \, \bm{x})$ と像のスカラー倍 $c \, f(\bm{x})$ が等しいことを意味しています。
つまり、 上記の $2$ つの式において、左辺と右辺はいずれも $W$ の元($V$ の元の像)です。
計量を保つ線形写像の定義(内積の値を保存すること)
これに対して、線形写像 $f : V \to W$ が計量を保つとき、$f$ は内積の値を保存します。すなわち、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について、次が成り立ちます( 計量を保つ線形写像の定義)。
ここで、$f$ が内積の値を保存することは、$2$ つの $V$ の元 $\bm{x}, \bm{y}$ の内積と、それぞれの $f$ による像 $f(\bm{x}), f(\bm{y})$($W$ の元)の内積が等しくなることを意味しています。
つまり、 上記の (7.4.1)式において、右辺は $V$ の元であるのに対して、左辺は $W$ の元($V$ の元の像)となります。
線形写像と計量を保つ線形写像の定義の形式的な違い
このように、ある写像が和とスカラー倍の演算を保存する(線形写像である)ことと、線型写像が内積の値を保存する(計量を保つ)ことは、異なる形式で定義されている点に注意が必要です。
このような違いは、和やスカラー倍の演算が $+ : V \times V \to V$ であるのに対して、内積の演算は $\cdot : V \times V \to K$ であり、像がスカラーとなることに起因します。
多くの教科書では、これらの違いを、次のように表現しています。
- 線型写像は、和とスカラー倍の「演算」を保存する。
- 計量を保つ線型写像は、内積の「値」を保存する。
計量を保つ線形写像の定義の仕方(誤り)
この点の理解が曖昧だと、思わぬ間違いをしてしまいます。例えば、計量を保つ線形写像の定義を次のように考えるのは、まったくの誤りです。
左辺において、$2$ つのベクトルの内積の値はスカラーであり $\bm{x} \cdot \bm{y} \in K$ となりますが、$f$ はベクトル空間 $V$ を定義域とする写像なので、そもそも $f(\bm{x} \cdot \bm{y})$ を考えることができません。
線型写像が計量同型であることと同値な条件
下記の 定理 7.15(計量を保つ線型写像)に示すように、線型写像が計量を保つことと長さを保つことは同値です。
また、 定理 7.17(計量同型であることと同値な条件)にみるように、ある線型写像 $f$ が計量を保つこと(長さを保つこと)は、$f$ が計量同型であることと同値な条件となります。
このような理由から、計量を保つこと(長さを保つこと)を特に定義せず、これを、計量同型写像であることと同値な条件としている教科書もあります( [2], [4] など)。
線形写像が計量を保つことと同値な条件
次に、線型写像が計量を保つことと長さを保つことが同値であることを示します。
定理 7.15(計量を保つ線型写像)
$V, W$ を計量ベクトル空間、$f : V \to W$ を線形写像とする。$f$ が計量を保つことと、$f$ が長さを保つことは同値である。
解説
計量を保つことと長さを保つことは同値
線型写像が計量を保つことと長さを保つことは同値です。すなわち、任意の線型写像 $f$ について、「($1$)$f$ が計量を保つ」 $\Leftrightarrow$ 「($2$)$f$ が長さを保つ」が成り立ちます。
($1$)$\Rightarrow$($2$)は ノルムの定義より明らかといえます。また、($2$)$\Rightarrow$($1$)は $f$ が線型写像であることより導くことができます。
定理 7.15(計量を保つ線型写像)の証明は、 下記に示す通りです。
証明
$f$ が計量を保つならば、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ が成り立つ。したがって、特に、任意の $\bm{x} \in V$ について、次が成り立つ。
よって、$f$ は長さを保つ。
逆に、$f$ が長さを保つならば、任意の $\bm{x} \in V$ について、$\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert$ が成り立つ。したがって、$\lVert \, f(\bm{x} + \bm{y}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} + \bm{y} \, \rVert$ であり、次が成り立つ。
上式の両辺について、
および、
$$
\begin{split}
{\lVert \, \bm{x} + \bm{y} \, \rVert}^{2}
&= (\bm{x} + \bm{y}) \cdot (\bm{x} + \bm{y}) \\
&= {\lVert \, \bm{x} \, \rVert}^{2} + \bm{x} \cdot \bm{y} + \overline{\, \bm{x} \cdot \bm{y} \vphantom{i} \,} + {\lVert \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \\
&= {\lVert \, \bm{x} \, \rVert}^{2} + 2 \, \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) + {\lVert \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \\
\end{split}
$$
であることから、$\text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y})$ が成り立つ。
同様に、$\lVert \, f(\bm{x} + i \, \bm{y}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} + i \, \bm{y} \, \rVert$ であることから、次が成り立つ。
上式の両辺について、
および、
であることから、$\text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y})$ が成り立つ。以上から、$f$ が長さを保つならば、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ が成り立つ。よって、$f$ は計量を保つ。$\quad \square$
証明の考え方
($1$) 「$f$ が計量を保つ」ことと、($2$) 「$f$ が長さを保つ」ことの同値性を証明します。
- ($1$)$\Rightarrow$($2$)は、 ノルムの定義より明らかといえます。
- ($2$)$\Rightarrow$($1$)は、内積の値が複素数($K = \mathbb{C}$)となる場合を考慮して、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ を実部と虚部に分けて、それぞれ成り立つことを示します。
($1$)$\Rightarrow$($2$)の証明
これは、 ノルムの定義より明らかといえます。
$f$ が計量を保つと仮定すると、 定義より、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ が成り立ちます。
このとき、次が成り立ちます。
$$ \begin{align*} \lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert &\overset{(\text{i})}{=} \sqrt{\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{x}) \vphantom{\big()} \,} \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \sqrt{\, \bm{x} \cdot \bm{x} \vphantom{()} \,} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} \lVert \, \bm{x} \, \rVert \end{align*} $$- ($\text{i}$)、($\text{iii}$) ノルムの定義によります。
- ($\text{ii}$)定理の仮定より、$f$ が計量を保つので、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{x}) = \bm{x} \cdot \bm{x}$ が成り立ちます。
以上から、($1$) 「$f$ が計量を保つ」ならば($2$) 「$f$ が長さを保つ」ことが示されました。
($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明
前提事項の整理
- 定理の前提より、$f$ が線型写像であること( 線型写像の定義)を用います。
- また、$V, W$ は $K$ 上の計量ベクトル空間です。つまり、$K = \mathbb{C}$ である場合(複素計量ベクトル空間)を含めて考える必要があります。
- 内積の値が複素数となり得ることを考慮し、$f$ が内積の値を保存することを示します。
- すなわち、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ を実部と虚部に分けて、それぞれ成り立つことを示します。$$ \begin{alignat*} {3} & \, (\text{I}) \quad & \text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) &= \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \\ & (\text{II}) \quad & \text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) &= \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \end{alignat*} $$
($\text{I}$)内積の値を保存することの証明(実部)
まず、$\text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y})$ が成り立つことを示します。
$f$ が長さを保つと仮定すると、 定義より、任意の $\bm{x} \in V$ について、$\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert$ が成り立ちます。
したがって、$\bm{x} + \bm{y} \in V$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{gather*} & \lVert \, f(\bm{x} + \bm{y}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} + \bm{y} \, \rVert \\ \Rightarrow & {\lVert \, f(\bm{x} + \bm{y}) \, \rVert}^{2} = {\lVert \, \bm{x} + \bm{y} \, \rVert}^{2} \tag{$\ast$} \end{gather*} $$($\ast$)式の左辺は、次のようになります。
$$ \begin{split} {\lVert \, f(\bm{x} + \bm{y}) \, \rVert}^{2} &\overset{(\text{i})}{=} f(\bm{x} + \bm{y}) \cdot f(\bm{x} + \bm{y}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \big(\, f(\bm{x}) + f(\bm{y}) \,\big) \cdot \big(\, f(\bm{x}) + f(\bm{y}) \,\big) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} {\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert}^{2} + f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) + \overline{\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \vphantom{\big()} \,} + {\lVert \, f(\bm{y}) \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} {\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert}^{2} + 2 \, \text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) + {\lVert \, f(\bm{y}) \, \rVert}^{2} \\ \end{split} $$($\ast$)式の右辺は、次のようになります。
$$ \begin{split} {\lVert \, \bm{x} + \bm{y} \, \rVert}^{2} &\overset{(\text{i})}{=} (\bm{x} + \bm{y}) \cdot (\bm{x} + \bm{y}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} {\lVert \, \bm{x} \, \rVert}^{2} + \bm{x} \cdot \bm{y} + \overline{\, \bm{x} \cdot \bm{y} \vphantom{i} \,} + {\lVert \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} {\lVert \, \bm{x} \, \rVert}^{2} + 2 \, \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) + {\lVert \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \\ \end{split} $$($\ast$)式の左辺と右辺を比べると、定理の仮定より、$\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert, \; \lVert \, f(\bm{y}) \, \rVert = \lVert \, \bm{y} \, \rVert$ であることから、次の式が得られます。
$$ \begin{gather*} (\ast) & \Leftrightarrow & 2 \, \text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = 2 \, \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \\ & \Leftrightarrow & \text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \\ \end{gather*} $$すなわち、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y})$ の実部と、$\bm{x} \cdot \bm{y}$ の実部が等しいことが確かめられました。
($\text{II}$)内積の値を保存することの証明(虚部)
次に、$\text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y})$ が成り立つことを示します。
$f$ が長さを保つと仮定すると、 定義より、任意の $\bm{x} \in V$ について、$\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert$ が成り立ちます。
したがって、$\bm{x} + i \, \bm{y} \in V$ について、次が成り立ちます。
$$ \begin{gather*} & \lVert \, f(\bm{x} + i \, \bm{y}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} + i \, \bm{y} \, \rVert \\ \Rightarrow & {\lVert \, f(\bm{x} + i \, \bm{y}) \, \rVert}^{2} = {\lVert \, \bm{x} + i \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \tag{$\ast \ast$} \end{gather*} $$($\ast \ast$)式の左辺は、次のようになります。
$$ \begin{split} {\lVert \, f(\bm{x} + i \, \bm{y}) \, \rVert}^{2} &\overset{(\text{i})}{=} f(\bm{x} + i \, \bm{y}) \cdot f(\bm{x} + i \, \bm{y}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} \big(\, f(\bm{x}) + i \, f(\bm{y}) \,\big) \cdot \big(\, f(\bm{x}) + i \, f(\bm{y}) \,\big) \\ &\overset{(\text{iii})}{=} {\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert}^{2} - i \, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) + i \, \overline{\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \vphantom{\big()} \,} + {\lVert \, f(\bm{y}) \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iv})}{=} {\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert}^{2} - 2 \, i \; \text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) + {\lVert \, f(\bm{y}) \, \rVert}^{2} \\ \end{split} $$- ($\text{i}$) ノルムの定義によります。
- ($\text{ii}$)$f$ が線型写像であることから、$f(\bm{x} + i \, \bm{y}) = f(\bm{x}) + i f(\bm{y})$ が成り立ちます( 線型写像の定義)。
- ($\text{iii}$)
内積の公理によります。
- 内積の演算について、 分配法則が成り立ちます。
- また、内積の 共役線型性により、$f(\bm{y}) \cdot \big\{\, i \, f(\bm{y}) \,\big\} = - i \, \big\{\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big\}$ となります( 定理 7.1(内積の基本的性質))。
- 更に、内積の エルミート対称性により、$f(\bm{y}) \cdot f(\bm{x}) + \overline{\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \vphantom{\big()} \,}$ となります。
- ($\text{iv}$)一般に、複素数 $z$ に関して $z - \overline{\, z \vphantom{i} \,} = 2 \, \text{Im} \, (z)$ であることによります。
($\ast \ast$)式の右辺は、次のようになります。
$$ \begin{split} {\lVert \, \bm{x} + i \, \bm{y} \, \rVert}^{2} &\overset{(\text{i})}{=} (\bm{x} + i \, \bm{y}) \cdot (\bm{x} + i \, \bm{y}) \\ &\overset{(\text{ii})}{=} {\lVert \, \bm{x} \, \rVert}^{2} - i \, \bm{x} \cdot \bm{y} + i \, \overline{\, \bm{x} \cdot \bm{y} \vphantom{i} \,} + {\lVert \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \\ &\overset{(\text{iii})}{=} {\lVert \, \bm{x} \, \rVert}^{2} - 2 \, i \; \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) + {\lVert \, \bm{y} \, \rVert}^{2} \\ \end{split} $$- ($\text{i}$) ノルムの定義によります。
- ($\text{ii}$)
内積の公理によります。
- 内積の演算について、 分配法則が成り立ちます。
- また、内積の 共役線型性により、$\bm{x} \cdot (\, i \, \bm{y} \,) = - i \, (\, \bm{x} \cdot \bm{y} \,)$ となります( 定理 7.1(内積の基本的性質))。
- 更に、内積の エルミート対称性により、$\bm{y} \cdot \bm{x} + \overline{\, \bm{x} \cdot \bm{y} \vphantom{()} \,}$ となります。
- ($\text{iii}$)一般に、複素数 $z$ に関して $z - \overline{\, z \vphantom{i} \,} = 2 \, \text{Im} \, (z)$ であることによります。
($\ast \ast$)式の左辺と右辺を比べると、定理の仮定より $\lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert, \; \lVert \, f(\bm{y}) \, \rVert = \lVert \, \bm{y} \, \rVert$ であることから、次の式が得られます。
$$ \begin{gather*} (\ast \ast) & \Leftrightarrow & 2 \, \text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = 2 \, \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \\ & \Leftrightarrow & \text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) = \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \\ \end{gather*} $$すなわち、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y})$ の虚部と、$\bm{x} \cdot \bm{y}$ の虚部が等しいことが確かめられました。
($1$)$\Leftarrow$($2$)の証明のまとめ
以上から、$f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y})$ と $\bm{x} \cdot \bm{y}$ の実部と虚部がともに等しいいので、任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について $f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y}$ が成り立つといえます。
$$ \begin{alignat*} {3} & \, (\text{I}) \quad & \text{Re} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) &= \text{Re} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \\ & (\text{II}) \quad & \text{Im} \, \big(\, f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) \,\big) &= \text{Im} \, (\bm{x} \cdot \bm{y}) \end{alignat*} $$したがって、($2$) 「$f$ が長さを保つ」ならば($1$) 「$f$ が計量を保つ」ことが示されました。
まとめ
- $V, W$ を計量ベクトル空間、$f : V \to W$ を線形写像とする。
任意の $\bm{x}, \bm{y} \in V$ について次が成り立つとき、$f$ は計量を保つという。
$$ \begin{align*} f(\bm{x}) \cdot f(\bm{y}) = \bm{x} \cdot \bm{y} \end{align*} $$また、任意の $\bm{x} \in V$ について次が成り立つとき、$f$ は長さを保つという。
$$ \begin{align*} \lVert \, f(\bm{x}) \, \rVert = \lVert \, \bm{x} \, \rVert \end{align*} $$$f$ が計量を保つことと、$f$ が長さを保つことは同値である。
参考文献
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